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作品ID | 45064 |
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著者 | 豊島 与志雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系 第十六巻」 ほるぷ出版 1977(昭和52)年11月20日 |
初出 | 「セウガク二年生」1938(昭和13)年8月〜1939(昭和14)年3月、「せうがく三年生」1939(昭和14)年4月〜5月 |
入力者 | 菅野朋子 |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2013-05-02 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 26 ページ(500字/頁で計算) |
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一
朝早くから、子供たちは、みんな、政雄の所に集りました。
「早く行かうよ。」
待ちくたびれてゐる所へ、政雄が出て来ました。
「さあ、行かう。」
政雄をまん中にして、一かたまりになつて出かけました。
政雄は、白ぬりの舟をかついでゐます。おもちやの舟です。おもちやですけれども、長さが三メートルもある大きな物で、ぜんまいじかけのきかいがついてゐて、ねぢをまいて水に浮かべると、ひとりでに動き出すのです。東京のをぢさんから送つて来た物です。
今日は、みんなで、その舟の進水式をしようといふのです。進水式ですから、きれいな場所を選ばなければなりません。
ちやうどよい所があります。村はづれの岡のふもとの、八幡様のわきの池で、片がはは木がこんもりとしげり、もう片一方は、草の生えた土手です。その池には、ひとりでにわき出る水が、いつも、きれいにすんでゐます。
政雄たちは、舟をかついで、そこへやつて行きました。
ところが、びつくりしました。
池の水がにごつてゐるのです。いつもは、きれいにすんで、底まですつかり見通され、ふなや、はやが、泳いでゐるのもよく見えてゐました。それが、今日は、一面ににごつて、きたなくなつてゐるのです。
どうしたのでせう。池の中に、何か、へんなものがゐるのでせうか。これでは、まつ白い舟の進水式は出来ません。
「どうしよう。」
みんなは、さうだんしました。
「僕は、ほかで進水式をするのはいやだ。」
と、政雄はいひました。
それで、池の水がすみきるまで待つことにしました。
でも、早く進水式をやりたいのです。夕方来て見ると、大方すんでゐたので、明日は大ぢやうぶのやうです。
翌朝、みんなは、また、元気を出してやつて来ました。
ところが、また、にごつてゐるではありませんか。
「へんだなあ。」
「どうしたのだらう。」
「水鳥かしら。」
「かはうそかな。」
よくしらべて見ると、土手の草が、あちらこちら水にぬれてゐます。
「きつと、何か、あやしい物がゐるのだよ。」
「さうだ、つかまへてやらうよ。」
舟の進水式は二三日のばして、そのあやしい物をつかまへることにしました。
元気な子供たちです。
三四人づゝかたまつて、うすぐらい夕方や、ぼうつとした夜あけ方、見まはりましたが、見つかりません。
「きつと、夜中に出るのだよ。」
ところが、夜中は、ちよつとこはいのです。どうしたらよいかと、みんな考へました。
二
池の水がにごつてゐて、白ぬりの舟の進水式が出来ないので、政雄たちは、その日も困つてゐました。
その時、そこへ、しらがのごいんきよが通りかゝりました。村の人たちから、うやまはれてゐる老人で、頭の毛が白く美しいので、しらがのごいんきよと呼ばれてゐるのです。
子供たちは、みんなおじぎをしました。
「みんなで、何をしてゐるのかね。」
と、…