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北極のアムンセン
ほっきょくのアムンセン |
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作品ID | 45068 |
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著者 | 豊島 与志雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系 第十六巻」 ほるぷ出版 1977(昭和52)年11月20日 |
初出 | 「世界探検物語」新潮社、1941(昭和16)年10月 |
入力者 | 菅野朋子 |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2013-05-05 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 34 ページ(500字/頁で計算) |
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一 地球の両極
地球は、自分でくるくる回転しながら、また大きく太陽のまはりを廻つてゐます。そしてこの地球自身の回転について、たとへば独楽のやうに、まん中に一本の軸があると仮定してみますと、その軸の一端が北となり、他の一端が南となります。その北を、地球の上では北極といひ、南を、南極といひます。
地球のこの回転のしかたは、いつも、横腹を太陽の方に向けるやうになつてゐますために、回転の軸の両端、すなはち、北極と南極との両地方は、太陽の熱を受けることが少くて、酷寒の地域となつてゐます。温度は零度以下数十度の寒さでありまして、まつたく氷と雪に蔽はれてゐます。その上、地球の回転の軸が太陽に対して少しく傾いてゐますために、一年のうち半年は、太陽が見えない夜ばかりですし、半年は、地平線に低く太陽が常に見えてゐて、明るさのにぶい昼ばかりです。
この両極地方がどういふ有様であるか、その探検のために、いろいろの企てがなされました。たとひ、人の住めない酷寒の地域であらうとも、世に知られない部分が地球の上にまだ残つてゐるといふことは、地球の主人公たる人間にとつては、甚だ残念なことでもあり、不面目なことでもあります。殊に、両極地の探検には、その荒々しい自然力を征服するといふ喜びの上に、地球の回転の軸の上に立つのだといふ楽しみまで加はります。
かくて多くの人々の探検の結果、現在では、両極地方の有様も、だいたい明かになつてをります。南極地方には大陸があると推定され、山脈や雪原や氷河があり、その氷の海岸線も半ばわかつてゐます。北極地方は海で、北氷洋と名づけられてゐますが、その中央部の海面は陸地と同じやうで、見渡す限り氷と雪の原野であります。
この両極地方の探検に、最も大きな功績を残したのは、ロアルト・アムンセンといふ人であります。
アムンセンは、千八百七十二年にノールウェーに生れましたが、少年の頃から探検家にならうと志して、スキー術を習得したり、野外生活で身体を鍛へたりしました。それからなほ船員となつて航海術をも修めました。その後、学術探検旅行に加はつて、いろいろな知識を得ました上に、大学で海洋学や気象学や磁気学などを学びました。かうした準備のあとで、彼はその生涯を探検事業に捧げました。
彼の探検の功績は幾つもあげられます。その主なものとしては、先づ北西航路の開拓があります。この北西航路といふのは、ヨーロッパの北西の方、グリーンランドとカナダとの間の島々のなかをぬけ、アラスカの沿岸からベーリング海峡を経て、東洋へ出る近みちの航路を指すのです。北氷洋に面した島々の間のこの航路は、昔から探査されてゐましたが、まだよく開拓されてゐませんでした。それをアムンセンは、僅か四十七噸の小さな船で、五人の同志を率ゐて、みごとに乗りきつたのであります。そしてこの航路開拓にあたつて、地球の磁気に関…