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拾うた冠
ひろうたかんむり
作品ID45154
著者宮原 晃一郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1921(大正10)年5月
入力者tatsuki
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2005-09-15 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 みなさん神社の神官がお祭の時などにかぶつてゐる帽子をご存じでせう。又あれが冠といふものであることもご存じでせう。あの冠は位によつて種類があります。丁度金筋の何本はひつた帽子は大将で、何本のは中将であると今軍人の帽子で官の位がわかるのと同じことです。
 昔、天皇陛下がまだ京都におすまひなされたときのことです。或時、京都に火事がありました。その日はあひにく風が強いのでちよつとのうちに市中に拡がりまして、誠に恐れ多いことですが天皇陛下のおいで遊ばす宮城にも、とう/\火が燃えつきました。宮城の人達は天皇陛下や、皇后陛下や、皇太子、皇子、皇女殿下などを、それ/″\、危くない場所におつれ申すことになりました。けれどもご存じのとほり、あの百人一首の絵にかいてあるやうな、長い、だぶ/\の着物を男も女も着てをりますから、なか/\思ふやうに活溌な働きが出来ません。そのうへに今のやうにちやんと普段から支度がとゝのへてありませんから、たゞ恐がつて、慌ててばかりゐて、一向だめでした。宮城にゐる人達でも、下等の者は、自分達だけさつさと馬を曳き出して、逃げ出し、そして市中に出て、自分の行く先にちつとでも邪魔になるものは皆腰にさした太刀でスパリ/\と打ち切つて行きます。で、その騒ぎといつたら大変なものでした。
 そのとき一人の皇子がどうしたものでしたか、お傍の者と別れて、独りで逃げ迷つていらつしやいました。風に煽られた火は大蛇の舌のやうにペロリ/\とお軒先を甜めてまゐります。瓦が焼け落ちて、グワラ/\と凄い音を立てます。逃げ迷ふ女子供の泣き喚く声やら、馳せまはる男達の足音、叫び声などワヤ/\ガヤ/\聞えて物凄い有様でした。そのうちに火はます/\勢が強くなつて、パリ/\バン/\と花火をあげてゐるやうな音をさして皇子の立つていらつしやる御殿へ移つてまゐりました。皇子のお顔はその火の熱で灼けるやうに赤くなりました。皇子はお傍の人達の名をいろ/\お呼びになりましたが、あたりの音が騒がしいのに消されてよく聞えません。又お傍の人達もどこかへ逃げてしまつたものか、さつぱり誰も御返事を申しあげません。そのうちに火はいよ/\近くなりまして、もはや皇子のお命も危いくらゐになりました。
 この大火事の最中、一人の呑気なおぢいさんが面白さうに見物してあるきました。この人は田舎から京都見物にはじめて上つてきた人ですから、都のことが何でも珍らしくてなりません。よくも案内を知らないので半分は迷ひ子になりながら、この騒ぎのなかを怪我もしないで見てあるくうち、とう/\宮城へ入り込んでしまひました。
 宮城のうちにはもう焼け落ちた建物もあれば、まだ燃えかけてゐるのもある。広いお庭には道具だの衣服だのが、いつぱいに散らかつてをります。もう人はたいてい逃げたとみえて、姿が見えません。するとそこに一つ冠が落ちてをりました。
「こ…

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