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夢の国
ゆめのくに
作品ID45156
著者宮原 晃一郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1923(大正12)年4月
入力者tatsuki
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2006-01-18 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

    一

 雪の降る日でした。
 吉ちやんは机について学課のお浚へをしてをりました。障子の立つてゐる室の内は、薄暗くて、まるで夕暮の様でした。外にはまだ盛んに雪が積るらしく、時々木の枝からさら/\と雪の落ちる音が聞えました。
「アヽ/\/\」
 吉ちやんは大きな口をあけて、欠伸をしました。ふと誰やら自分を呼ぶ声がしますから、振り返つてみますと、暗い片隅に、白いお鬚の長く垂れたおぢいさんが、蝙蝠傘を手にもつて、立つて居りました。
「僕を呼んだのは、あなたですか。」
 吉ちやんは不思議さうにきゝました。
「あゝわしが呼んだ、お前は大変勉強するね、少し休まないか、面白いものを見せてあげるよ。」
 吉ちやんは変なおぢいさんだ。一体どこから、いつ来たのだらうと思ひました。けれども全然見知らぬ人でもないやうでした。
「あゝさう/\。」
と、吉ちやんはその時不意に思ひつきました。
「あなたは去年のクリスマスに、青年会館に出てゐらした、サンタ・クロースですね。」
 おぢいさんは、につこり笑ひました。
「似てゐるかも知れないが、ちがふよ。わたしはねえ、オレ・リユク・ウイといふ名さ。」
「へえ、やはり西洋人ですね。」
「いや、西洋人でもなければ、支那人でも日本人でもない。夢の国にゐるものだよ。」
「夢の国? そんな国がありますか。」
「あるとも/\、わしの名はそれに因んだものだ。オレ・リユク・ウイといふのは、日本の言葉で言へば、眼をつぶれ、といふことだよ。お前もちよつと、わしの国へ行つてみないか。」
「えゝ有難う、でもこんなに雪が降つちや、外は路が悪いでせう。」
「いゝえ、外へ出なくてもいゝのだよ、只そこへ坐つたまゝ、この傘の下に入れば、直ぐ行かれるんだ、いゝかね、ほうれ。」
 オレ・リユク・ウイのおぢいさんは、さう言つて、手にもつた蝙蝠傘をひろげて、吉ちやんの頭の上にさしかけました。
 それは綺麗な不思議な絵をかいた傘でした。子供の顔をした花やら、人間のやうに歩く動物やら、まだみたこともない形や色をしたものが、沢山にかいてありました。しかも、それが活動写真のやうに、動くのでした。
「これが夢の国ですか。変なところですねえ。日本とはまるでちがつてゐる。」
 吉ちやんが言ひますと、オレ・リユク・ウイは、
「日本のやうなところもあるよ。そこが見たければ、つれて行つてあげるよ。ちよつと眼をつぶりなさい。」
と、言ひました。


    二

「あゝ本当に不思議々々々。」
と、吉ちやんは叫びました。
「おぢいさんこゝはどこ? えゝ? 浅草の観音様?」
「さあ、さうかも知れない。夢の国の処の名はむづかしいから、言はないで置かう。」
「あれ、あすこに石の鳥居が見えますよ。けれども仲見世はありませんね。」
「うん、そんなものはない、けれどもね、一つお前に言つて置くことがある。それはお前に…

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