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![]() こうぼうのねことにわとり |
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作品ID | 45161 |
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著者 | 宮原 晃一郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版 1978(昭和53)年11月30日 |
初出 | 「赤い鳥」1926(大正15)年2月 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | 鈴木厚司 |
公開 / 更新 | 2006-01-18 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 10 ページ(500字/頁で計算) |
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一
幸坊のうちは、ゐなかの百姓でしたから、鶏を飼つてゐました。そのうちに、をんどりはもう六年もゐるので、鶏としては、たいへんおぢいさんのはずですが、どういふものか、この鳥にかぎつて、わか/\しくしてゐました。まつ白な羽はいつも生えたてのやうに、つや/\して、とさかは赤いカンナの花のやうにまつ赤で、くちばしや足は、バタのやうに黄いろでした。
幸坊が餌をもつていくと、このをんどりがまつ先きにかけて来ます。幸坊がわざと、ぢらして餌をやらないと、をんどりは片足をあげながら、首をかしげて、ふしぎさうに餌箱を見上げますが、幸坊が笑ひながら、やつぱり餌をくれないでゐると、とう/\たまらなくなつてクウ/\と小さな声で鳴きます。
「幸ちやん、幸ちやん。ちやうだいな。そんな、いぢわるをしないで……」
さう言つてゐるやうに聞えます。
「やるよ、やるよ。さア/\。」
幸坊は、かはいさうになつて、餌をまいてやると、そこへ、いきなり、まつ黒な猫が一ぴきとび出してきます。ほかの鶏はびつくりして、クワツ/\と叫んでにげますけれど、をんどりだけはなか/\勇気があつて、ちよつと首をあげて、グウとのどをならして、猫をにらみます。猫は面白がつて、飛びつきさうにしますと、をんどりは頭を下げ、首の毛をさかだてゝ、猫がそばに来たら、目をつゝいてやらうと、まちかまへてゐます。
「黒や、もうおよしよ。とうとがきらふからね。」
幸坊はさう言つて、黒をだきあげて、そのつめたい鼻の先をじぶんの頬つぺたにぴつたりとつけ、ビロードのやうなその背をなでてやります。黒は甘えて、のどをゴロ/\音させながら、するどい爪で、しつかり幸坊の着物にすがりついてゐるのです。
二
或日、幸坊が学校の当番で、おそくうちへかへりました。すると、お母さんが、困つた顔をしてかう言ひました。
「幸や、あのね。をんどりが見えなくなつたよ。そこらの藪にでも入つてゐないか見ておいで。悪い狐が出るけれど、まさか昼だから、狐がとつたんでもあるまい。」
幸坊はほんとにびつくりしました。あのうつくしい、かはいゝをんどりがゐなくなつたのか。それは大へんなことだ。どうしてもさがし出して来なければならないと思つて、肩からかばんをおろすとすぐ一本の竹切れをとつて、出かけようとしますと、どこからか黒が出て来て、にやあんと鳴きながら、あとをついて来ます。
「黒や、いけないよ。おかへり。ぼくはね、をんどりのとうとをさがしにいくんだからね。おまいが犬だとつれていつて、さがす手つだひをさせるんだけれど、猫ぢやだめだ。」
幸坊はしきりに黒を追ひかへさうとしますけれど黒はなか/\かへりません。仕方がないから、ほうつておくと、黒はさつさと先にいつて、畑の向うにある大きな森の中にはいつてしまひました。幸坊はをんどりばかりでなく、黒までゐなくして…