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にらめつくらの鬼瓦
にらめっくらのおにがわら
作品ID45173
著者沖野 岩三郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「金の星」金の星社、1925(大正14)年2月
入力者tatsuki
校正者田中敬三
公開 / 更新2007-04-11 / 2014-09-21
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 今雄さんは、五年級甲組の一番でした。
 京一さんは、五年級乙組の一番でした。

 今雄さんのお父さまは、ごん七さんといふ名で、東山の中ほどに、大きな家を建てて、瓦屋をしてゐました。
 京一さんのお父さまは、ごん八さんといふ名で、西山の中ほどに、りつぱな家を建てて、瓦屋をしてゐました。

 東山の瓦屋と、西山の瓦屋とは、いつも競争をして、おたがひに、自分のうちで焼いた瓦の、自慢を言ひ合つてゐました。
 東山へ、瓦を買ひに行きますと、ごん七さんは、じまんらしく、
「私どもの瓦は、西山さんのやうに、寒さにめげて、こはれるやうな、そんな不出来な品ではありません。」と、言つて、こつこつと、石ころで、瓦をたたいて見せます。
 西山へ、瓦を買ひに行きますと、ごん八さんは、とくいになつて、
「手前どもの瓦は、東山さんのやうに、そまつなものでは、ありませんから、この通り、投げつけたつて、こはれるやうな事はありません。」と、言つて、瓦を庭に投げつけて見せます。
 両方の瓦屋で、毎日そんな事を言つてゐるうちに、
「たたいても、こはれない瓦。」
「投げても、こはれない瓦。」
と、いふ評判が高まつて、遠くの村や町から、東山へも、西山へも、毎日大ぜいの人が、瓦を買ひに来るやうになりました。で、二人は、もう仲よくすれば善いのに、東山のごん七さんは、いぢわるでしたから、何とかして、西山のごん八さんを、たたきおとして、自分の店だけを、はんじやうさせたいと思つてゐました。西山のごん八さんも、きかぬ気の人でしたから、東山から、いぢわるを、しかけられると、だまつては、ゐませんでした。

 その年の秋、村の小学校に、秋の運動会がありました。学校中で、一番よく走るのは、今雄さんと京一さんでした。今年の二百めえとる競走で、一番を取るのは、今雄さんだらうか、京一さんだらうかといふことが、村中の評判になりました。
 いよいよ、運動会の日になりますと、村の人たちは、東山派と西山派とに分れて、手手に、旗を押し立てて、学校の運動場へのりこみました。東山派の、今雄さんびいきの人たちは、赤い旗を、西山派の、京一さん組の人たちは、白い旗を造りました。そして、源氏と平家のやうに東と西とに分れて、応援をする事になりました。

 運動会の競技は、段段と進んで、いよいよ最後の、二百めえとる競走になりました。
 東の方では、生徒の父兄達が、赤い旗を振つて、
「たたいても、こはれない方、しつかりしろ。」と、叫びますと、西の方では、
「投げても、こはれない方、しつかりしろ。」と、叫びつづけました。
 けれども競技の結果は、京一さんが一足程早く、決勝点へ入つたので、
「投げても、こはれない方万歳。」の、こゑが、西の方から起りました。すると東山の方から、
「今一度やり直せ。不公平だ。」
と、叫ぶこゑが起りました。そこで校長さんは、
「…

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