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岩を小くする
いわをちいさくする
作品ID45177
著者沖野 岩三郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一一巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「金の星」金の星社、1927(昭和2)年1月
入力者tatsuki
校正者田中敬三
公開 / 更新2007-04-08 / 2014-09-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 後村上天皇さまの皇子さまに、寛成さまと申すお方がございました。
 まだ、ごく御幼少の時、皇子さまは、多勢の家来たちと、御一しよに、吉野川の上流、なつみの川岸へ、鷹狩を御覧においでになりました。
 川岸には、大きな岩があつて、その上に、松の木が一本、枝ぶり美しく、生えてゐました。
 寛成の皇子さまは、それが大へん、お気に入つたとみえ、おそばにゐた、中将河野実為に、
「帰るとき、あの岩と松とを、御所のお庭へ、持つて行つて下さい。陛下に献上したいから。」と、仰せになりました。
 岩といつても、大きな岩で、どれだけの重さだか、わかりません。けれども、まだお小い、皇子さまのことですから、鷹狩を、御覧になつてゐるうちに、その岩のことは、お忘れになられるだらう、と、思ひましたので、中将は、
「よろしうございます、帰りには、きつと、持つてまゐりませう。」と、善い加減なお返事をいたしておきました。
 やがて、鷹狩もすんで、みんな、御所の方へ、お帰りになりました。
 途中で寛成の皇子さまは、
「あ、あの岩を、忘れて来たではないか。」と、申されました。すると、そばに居た、忠行の侍従は、
「あの岩は、なかなか、重うございますから、私ひとりの力では、とても、持つてまゐる事は出来ませんが、民部大輔は、大変な、力もちでございますから、あとから、持つてまゐりませう。」と、申し上げました。そして、岩と松の事は、お忘れになるやうに、いろいろ、面白いお話をいたしましたが、皇子さまは、御所へお帰りになると直ぐ、河野中将を、およびになつて、
「まだ。あの岩と松は、持つて来ないのか。」との、お尋ねでございました。中将も、困りましたので、
「岩のことは、忠行の侍従に、よく言ひつけて置きましたから、おきき下さいまし。」と、申し上げますと、皇子さまは、
「では、すぐ忠行に、ここへ来いと言つて下さい。」と、申されました。で、致方なしに、忠行を呼んでまゐりますと、
「あの岩は、どうした。早く持つて来ないか。岩には、松が生えてゐた筈だ。」と、仰せになりましたので、忠行の侍従も、困つてしまひ、
「あの岩は、民部大輔が、あとから、持つてまゐつた筈でございます。只今大輔を、これへ呼び出しませう。」と、いい加減な事を、申し上げましたが、皇子さまは、なかなか、御承知なさらないで、
「あれだけ中将に、よくよく言ひつけて置いたのに、どうして、早く持つてまゐらぬのか。」と、申されて、悲しさうに、うなだれてゐられますので、中将から、此の事を、天皇さまに申し上げますと、天皇さまは、お手を拍つてお笑ひになり、
「それは面白い、その岩を、是非見たいものだ。民部大輔は、日本一の力もちだから、きつと、持つてきたに相違ない。早く此所へ、もつて来るやうに、言ひつけるがよい。」と、申されました。そこで、中将は、室の外に出て行つて、民部大輔に、

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