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青い顔かけの勇士
あおいかおかけのゆうし
作品ID45191
著者鈴木 三重吉
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1929(昭和4)年8月
入力者tatsuki
校正者林幸雄
公開 / 更新2007-04-02 / 2014-09-21
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

    一

 トゥロットのお家は貴族で、お父さまは海軍の士官ですが、今は遠方へ航海中で、トゥロットはお母ちやまや女中のジャンヌたちと一しよに、海岸の別荘でくらしてゐます。トゥロットにはイギリス人の或ミスが、まいにち家庭教師にかよつて来て、町中や浜べへつれて出たりして、いろ/\のことををしへてゐます。
「おぼつちやま、ミスがいらしつて、おまちになつていらつしやいますよ。」と、けさもジャンヌがよびに来ました。トゥロットは、つんぼのやうなふりをして、ぽかんと窓の外を見てゐました。
「これ、坊や。ジャンヌがよんでるのが聞えないの。」とお母ちやまがおつしやいました。
「聞えたの。」と、トゥロットは、むじやきな目を上げてこたへました。
「だつてお母ちやま、わかつてるでせう? ほら。ぼく、ミスと一しよに出かけるとあき/\してしまふの。」
 すると、お母ちやまは、すこしけはしくまみげをしかめて、
「さあ、早くいつてらつしやい。おとなですね。ミスのお話をよくおぼえて来て、お午のときにお母ちやまに話してちようだいね。」
 トゥロットは、いや/\こつちへ来て、なさけなささうにジャンヌにもたれかゝりながら、小さな青服をきせてもらひました。それから頭をつき出して、リボンのついた帽子をかぶらせてもらひました。
「あゝあ、またミスのお話を聞かなけやならないのか。」とトゥロットはおもひました。お母ちやまはお話をすつかりおぼえて来るのだなんておおどかしになりました。でも、それは、けつきよく、たゞおつしやるばかりだからだいじようぶです。これまでだつて、お午のお食事のときには、お母ちやまは、いろんなほかのことを考へていらしつて、朝おつしやつたことはわすれていらつしやるのがおきまりです。
 ミスは、すつかり身がためをしてゐます。がんこな顔色を、みどりいろの顔かけで、やはらげ、とてもおほきな両うでのとつさきに、スコットランド出来の日がさと、だい/\いろの、かりとぢのご本をつかんでゐます。ふしくれだつたそのからだは、ちようど、うすつぺらな石炭袋へ石炭をぎゆう/\つめこんだやうなかつこうです。茶のサージ服の下には、ごつ/\した骨ぐみが見えてゐます。たゞ服のまへの方だけが、くびのところから足のあたりまで、すべつこく、まつすぐに見え、まつ平になつてゐます。
 ミスは、やせた手をつき出しました。トゥロットは、うでをのばしてその手につかまりました。ミスはトゥロットの手の平をぎゆうとにぎつて、づしん/\と足をふみながら、さきに立つて歩き出しました。トゥロットは、せい一ぱいに大またをひらいてついていきます。それは、まるで足長蜘蛛が小さなワラヂ虫をおともにつれて出かけるやうなかたちでした。
 ミスは、れいのやうに、せんさくをはじめました。
「トゥロットさん。きのふはどんなわるいことをしました? 一とうわるかつたとお…

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