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かたつむり
かたつむり
作品ID45193
著者鈴木 三重吉
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本児童文学大系 第一〇巻」 ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日
初出「赤い鳥」1929(昭和4)年3月
入力者tatsuki
校正者林幸雄
公開 / 更新2007-04-02 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

    一

 トゥロットのお母ちやまは、朝、いろんな人たちと一しよに、馬車でそとへお出かけになりました。ド・ヴレーさんといふよそのをぢさまが、馬のたづなをとり、もう一人のをぢさまがラッパをならして、みんなでたのしさうに出ていきました。トゥロットは、ちひさくて、足手まとひになるので別荘にのこされました。
 トゥロットは、女中のジャンヌと二人であそぶつもりでゐたのですのに、お母ちやまはトゥロットがたいくつするだらうとおもつて、先生のミスに、来てやつて下さいとおたのみになつたものです。トゥロットは、あゝあと、がつかりしました。お母ちやまは、トゥロットにさうだんもなさらないで、いやな人をおよびになるのですからたまりません。
 ミスはお庭のおくのべンチにこしかけて、偉大なお鼻の上にめがねをのつけて、顔中のすぢ一つさへうごかさないで、自動器械のやうに、さく/\とご本をめくつてゐます。トゥロットは、ミスにしかられないやうに、何かわるくないことをして、時間をつぶさなければなりません。それでさん/″\かんがへて、けふはお庭の中をくはしく見て歩いてみようとおもひつきました。
 今は、庭もかなりあれてゐて、砂利だの、やせた芝のごみだの、木のきれはしなぞが、ちらかつたりしてゐますが、でもまん中どころにあるバラの木だけは、人の目を引きつけないではおきません。とてもすばらしい、いゝバラの木で、とき/″\花がさきます。けふも、ちようど一つ、大きくさきひらいてゐます。トゥロットは、その花をうつとりと、いろんな方がくからながめました。それは何ともいへない、きれいな花です。
 と、そのうちに、きふにトゥロットの目は、大きくまるくなつて、じつと一ところを見すゑました。ほう、こはいものがゐる。バラの葉の上にかたつむりがのそ/\うごいてゐます。おゝ、いやなやつ。うしろにきら/\したあとをひいて、頭を右にまはしたり左にまはしたり、つのを出したり、ひつこめたりしてゐます。ちつとも、ゑんりよなんかしてゐやしません。トゥロットは、しばらく、じつと見つめたのちに、するどい声をたてゝミスをよびました。
「ミス、来てごらんなさい。」
 ミスは大きな鼻を上げ、ご本をかゝへて、四またぎでトゥロットのそばへ来ました。
「何です。」
 トゥロットは、おゝこはい/\といふやうに、ゆびさしました。
「かたつむりぢやありませんか。」
 それはわかつてゐます。トゥロットが見たつてかたつむりです。
「この軟体動物は植物に害を加へます。殺してもかまひません。」
 トゥロットは、けつこうなおゆるしをいたゞきました。しかし、こいつをつかまへるのはたまりません。とてもいやなことです。
「とつて下さいな、ミス。」
 ミスは、たちまち、けはしい目つきをしました。
「なぜわたしがそれをつかまへるのです。なぜあなたがつかまへないのです。それがバ…

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