えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
いぼ
いぼ |
|
作品ID | 45212 |
---|---|
著者 | 新美 南吉 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「童話集 ごんぎつね|最後の胡弓ひき ほか十四編」 講談社文庫、講談社 1972(昭和47)年2月15日 |
入力者 | 土屋隆 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2005-07-31 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 22 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
一
にいさんの松吉と、弟の杉作と、年もひとつちがいでしたが、たいへんよくにていました。おでこの頭が顔のわりに大きく、わらうと、ひたいにさるのようにしわがよるところ、走るとき、両方の手をひらいてしまうところも同じでした。
「ふたり、ちっとも、ちがわないね。」
と、よく人がいいました。そうすると、にいさんの松吉が、口をとがらして、虫くい歯のかけたところからつばをふきとばしながら、いうのでした。
「ちがうよ。おれにはふたつもいぼがあるぞ。杉にゃひとつもなしだ。」
そういって、右手の骨ばったにぎりこぶしを出して見せました。見ると、なるほど、親指と人さし指のさかいのところに、一センチぐらいはなれて、小さいいぼがふたつありました。
この兄弟の家へ、町から、いとこの克巳が遊びにきたのは、きょ年の夏休みのことでした。克巳は、松吉と同い年の、小学校五年生でした。
克巳は五年生でも、からだは小さく、四年生の杉作とならんでも、まだ五センチぐらい低かったが、こせこせとよく動きまわる子で、松吉、杉作の家へくるとじき、はつかねずみというあだ名をつけられてしまいました。
松吉、杉作の家のうらてには、ふたかかえもあるニッケイの大木がありました。その木の皮を石でたたきつぶすと、いいにおいがしたので、おとなたちが、昼ねをしている昼さがりなど、三人で、まるできつつきのように、木のみきをコツコツとたたいていたりしました。
また、あるときは、おじいさんの耳の中に、毛がはえていることを克巳が見つけて、
「わはァ、おじいさんの耳、毛がはえている。」
とはやしたてたことがありました。松吉、杉作は、もうずっとまえから、そんなことは知っていました。が、あまり、克巳がおもしらそうにはやしたてるので、いっしょになってこれも、
「わはい、おじいさんの耳、毛がはえている。」
と、はやしたてたものでした。すると、おじいさんが、松吉、杉作をにらみつけて、
「なんだ、きさまたちゃ。おじいさんの耳に、毛のはえとることくれえ、毎日見て、よく知ってけつかるくせに。」
と、しかりとばしました。そんなこともありました。
克巳はからうすをめずらしがって、米をつかせてくれとせがみました。しかし、二十ばかり足をふむと、もういやになって、おりてしまいましたので、あとは、松吉と杉作がしなければなりませんでした。
あしたは克巳が、町へ帰るという日の昼さがりには、三人でたらいをかついで裏山の絹池にいきました。絹池は、大きいというほどの池ではありませんが、底知れず深いのと、水がすんでいてつめたいのと、村から遠いのとで、村の子どもたちも、遊びにいかない池でした。三人は、その池をたらいにすがって、南から北に横ぎろうというのでした。
三人は南の堤防にたどりついてみますと、東、北、西の三方を山でかこまれた池は、…