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行乞記
ぎょうこつき
作品ID45389
副題04 (三)
04 (さん)
著者種田 山頭火
文字遣い新字旧仮名
底本 「山頭火全集 第四巻」 春陽堂書店
1986(昭和61)年8月5日
入力者さくらんぼ
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2008-04-23 / 2014-09-21
長さの目安約 116 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   鶏肋抄
□霰、鉢の子にも(改作)
□山へ空へ摩訶般若波羅密多心経(再録)
□旅の法衣は吹きまくる風にまかす(〃)
   雪中行乞
□雪の法衣の重うなる(〃)
□このいたゞきのしぐれにたゝずむ(〃)
□ふりかへる山はぐれて(〃)
    ――――
□水は澄みわたるいもりいもりをいだき
□住みなれて筧あふれる

   鶏肋集(追加)
□青草に寝ころべば青空がある
□人の子竹の子ぐいぐい伸びろ(酒壺洞君第二世出生)

 六月一日 川棚、中村屋(三五・中)

曇、だん/\晴れて一きれの雲もない青空となつた、照りすぎる、あんまり明るいとさへ感じた、七時出立、黒井行乞、三里歩いて川棚温泉へ戻り着いたのは二時頃だつたらうか、木下旅館へいつたら、息子さんの婚礼で混雑してゐるので、此宿に泊る、屋号は中村屋(先日、行乞の時に覚えた)安宿であることに間違はないが、私には良すぎるとさへ思ふ。
すべてが夏だ、山の青葉の吐息を見よ、巡査さんも白服になつた、昨日は不如帰を聴き今日は早松茸を見た、百合の花が強い香を放ちながら売られてゐる。
笠の蜘蛛! あゝお前も旅をつゞけてゐるのか!
新らしい日、新らしい心、新らしい生活、――更始一新して堅固な行持、清浄な信念を欣求する。
樹明君からの通信は私をして涙ぐましめた、何といふ温情だらう、合掌。
・ほうたるこいほうたるこいふるさとにきた
此宿はよい、ていねいでしんせつだ、温泉宿は、殊に安宿はかういふ風でなければならない、ありがたい/\。

 六月二日 同前。

雨、そして関門地方通有の風がまた吹きだした、終日、散歩(土地を探して)と思案(草庵について)とで暮らした。
午後、小串へ出かけて、必要缺ぐべからざるものを少々ばかり買ふ。
山ほとゝぎす、野の花さま/″\。
老慈師から、伊東君から、その他から、ありがたいたよりがあつた。
隣室の奥さん――彼女はお気の毒にもだいぶヒステリツクである――から御馳走していたゞいた。
自己を忘ず――そこまで徹しなければならない。
こゝはうれしい、しづかにしてさびしくない。
だん/\酒から解放される、といふよりもアルコールを超越しつゝある、至祷至祝。
緑平老から貰つた薬を、いつのまにやら、みんな飲んでしまつた、私としては薬を飲みすぎる、身心がおとろへたからだらうが、とにかく薬を多く飲むほど酒を少く飲むやうになつたわい。
昨夜はよく寝られたのに、今夜はどうしても眠れない、暁近くまで読書した。
 家をさがすや山ほとゝぎす
 月草いちめん三味線習うてゐる
・ばたり落ちてきて虫が考へてゐる
・旅のつかれの夕月がほつかり(改作再録)

 六月三日 同前。

雨、まるで梅雨のやうだ、歩いたり、考へたり、照会したり、交渉したり……、たゞ雨露を凌ぐだけの庵を結ぶのもなか/\である。
早朝、雷雨に起きて焼香し読経する。
温泉饅頭を…

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