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選挙漫談
せんきょまんだん |
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作品ID | 45448 |
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著者 | 黒島 伝治 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「黒島傳治全集 第三巻」 筑摩書房 1970(昭和45)年8月30日 |
入力者 | Nana ohbe |
校正者 | 林幸雄 |
公開 / 更新 | 2009-07-14 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 6 ページ(500字/頁で計算) |
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投票を売る
投票値段は、一票につき、最低五十銭から、一円、二円、三円と、上って、まず、五円から、十円どまり位いだ。百姓が選挙場まで行くのに、場所によっては、二里も三里も歩いて行かなければならない。
ところが、彼等は遊んでいられる身分ではない。丁度、秋蚕の時分だし、畑の仕事もある。そこで、一文にもならないのならば、彼等は棄権する。二里も三里もを往って帰れば半日はつぶしてしまうからだ。
金を貰えば、それは行く。五十銭でもいゝ。只よりはましだ。しかし、もっとよけい、二円でも三円でも、取れるだけ取っておきたい。取ってやらなければ損だ。
どうして、彼等が、そういうことを考えるようになるか。
彼等も昔の無智な彼等ではない。県会議員が、当選したあかつきには、百姓の利益を計ってやる、というような口上には、彼等はさんざんだまされて来た。うまい口上を並べて自分に投票させ、その揚句、議員である地位を利用して、自分が無茶な儲けをするばかりであることを、百姓達は、何十日[#「何十日」はママ]となく繰返えして見せつけられて来た。
だから、投票してやるからには、いくらでも、金を取ってやらなければ損だ、と、そういう風に考えだしたのである。
永久の貧乏
百姓達が、お前達は、いつまでたっても、──孫子の代になっても貧乏するばかりで、決して頭は上らない。と誰れかに云われる。
彼等は、それに対して返事をするすべを知らない。それは事実である。彼等は二十年、或は三十年の経験によって、それが真実であることを知りすぎているのである。
しかし、彼等は、どうして貧乏をするか、その原因も知らない。彼等は、貧乏がいやでたまらない。貧乏ぐらい、くそ嫌いなものはない。が、その貧乏がいつも彼等につきまとっているのだ。
これまでの県会議員や、国会議員が口先で、政策とか、なんとか、うまいことを並べても、それは、その場限りのおざなりであることを彼等は十分知りすぎている。では、彼等を貧乏から解放してくれるものは何であるか。──彼等には、まだそれが分っていない。分っている者もないことはない。しかし、大部分の百姓に、それがまだ分っていない。
俺達は、何故貧乏するか。
どうすれば、俺達は、貧乏から解放されるか。
この二つを百姓に十分了解させることが、なによりも必要だ。それが分れば、彼等は誰れに一票を投ずべきかを、ひとりでゞ自覚するのである。
演説会
民政派の演説会には、必ず、政友会の悪口を並べる。政友会の演説会には、反対に民政党の悪口をたゝく。そういう時には、片岡直温のヘマ振りまで引っぱり出して猛烈に攻撃する。
演説会とは、反対派攻撃会である。
そこへ行くと、無産政党の演説会は、たいていどの演説会でも、既成政党を攻撃はするが、その外、自分の党は何をするか、を必ず説く。そこは…