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修禅寺物語
しゅぜんじものがたり
作品ID45457
著者岡本 綺堂
文字遣い旧字旧仮名
底本 「日本現代文學全集34 岡本綺堂・小山内薫・眞山青果集」 講談社
1968(昭和43)年6月19日
初出「文藝倶樂部」1911(明治44)年1月
入力者土屋隆
校正者川山隆
公開 / 更新2008-05-06 / 2014-09-21
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

(伊豆の修禪寺に頼家の面といふあり。作人も知れず。由來もしれず。木彫の假面にて、年を經たるまゝ面目分明ならねど、所謂古色蒼然たるもの、觀來つて一種の詩趣をおぼゆ。當時を追懷してこの稿成る。)

 登場人物

面作師 夜叉王
夜叉王の娘 かつら
同 かへで
かへでの婿 春彦
源左金吾頼家
下田五郎景安
金窪兵衞尉行親
修禪寺の僧
行親の家來など

       (一)

伊豆の國狩野の庄、修禪寺村(今の修善寺)桂川のほとり、夜叉王の住家。
藁葺の古びたる二重家體。破れたる壁に舞樂の面などをかけ、正面に紺暖簾の出入口あり。下手に爐を切りて、素燒の土瓶などかけたり。庭の入口は竹にて編みたる門、外には柳の大樹。そのうしろは畑を隔てゝ、塔の峯つゞきの山または丘などみゆ。元久元年七月十八日。
(二重の上手につゞける一間の家體は細工場にて、三方に古りたる蒲簾をおろせり。庭さきには秋草の花咲きたる垣に沿うて荒むしろを敷き、姉娘桂廿歳。妹娘楓、十八歳。相對して紙砧を擣つてゐる。)

かつら (軈て砧の手をやめる)一[#挿絵]餘りも擣ちつゞけたので、肩も腕も痺るゝやうな。もうよいほどにして止めうでないか。
かへで とは云ふものゝ、きのふまでは盆休みであつたほどに、けふからは精出して働かうではござんせぬか。
かつら 働きたくばお前ひとりで働くがよい。父樣にも春彦どのにも褒められようぞ。わたしは忌ぢや、忌になつた。(投げ出すやうに砧を捨つ)
かへで 貧の手業に姉妹が、年ごろ擣ちなれた紙砧を、兎かくに飽きた、忌になつたと、むかしに變るお前がこの頃の素振は、どうしたことでござるか喃。
かつら (あざ笑ふ)いや、昔とは變らぬ。ちつとも變らぬ。わたしは昔からこのやうな事を好きではなかつた。父さまが鎌倉においでなされたら、わたし等も斯うはあるまいものを、名聞を好まれぬ職人氣質とて、この伊豆の山家に隱れ栖、親につれて子供までも鄙にそだち、詮事無しに今の身の上ぢや。さりとてこのまゝに朽ち果てようとは夢にも思はぬ。近いためしは今わたし等が擣つてゐる修禪寺紙、はじめは賤しい人の手につくられても、色好紙とよばれて世に出づれば、高貴のお方の手にも觸るゝ。女子とてもその通りぢや。たとひ賤しう育つても、色好紙の色よくば、關白大臣將軍家のおそばへも、召出されぬとは限るまいに、賤の女がなりはひの紙砧、いつまで擣ちおぼえたとて何とならうぞ。忌になつたと云うたが無理か。
かへで それはおまへが口癖に云ふことぢやが、人には人それ/″\の分があるもの。將軍家のお側近う召さるゝなどと、夢のやうな事をたのみにして、心ばかり高う打ちあがり、末はなんとならうやら、わたしは案じられてなりませぬ。
かつら お前とわたしとは心が違ふ。妹のおまへは今年十八で、春彦といふ男を持つた。それに引きかへて姉のわたしは、二十歳といふ今日の今まで…

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