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死体を喫う学生
したいをくうがくせい
作品ID45529
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-30 / 2014-09-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 北海道の○○大学は、後に農園があって、側面が運動場になっているが、その運動場の端れから農園にかけて草の堤が続き、そして堤の外は墓場になっていた。
 年代は不明であるが、その大学に、某と云う学生がいた。色の蒼い脊のひょろ長い陰気な青年であった。その学生は何時も一人で、校舎や運動場の隅で瞑想にでも耽けっているようにぽつねんとしていたので、何人もその存在を認める者はなかったが、ただ一人Mと云う学生だけがそれを知っていた。と云うのは、Mと其の学生は寄宿舎の寝室が一所であるうえに、寝台が並んでいたがためであった。一行の寝室は二階の奥の部屋であって、そこには六つの寝台が置いてあった。
 そんなことでMは其の学生を知っていたが、ただ朝晩の挨拶をかわすくらいのことで、無論郷里などは知らなかった。知ろうと思ったこともあったが、対手がひどく嫌うようにするから訊いてもみなかった。
 それは霧の深い夜であった。その夜は何故か寝ぐるしかった。そして、やっと眠りかけたところで、微かな物の気配がしたので、Mはそっと眼をその方へやった。室は外の白い霧のために微かに明るかった。そこには学生が皆の寝息を窺いながら、寝台からおりて服を著けているところであった。
 Mはどこへ往くつもりだろうと思った。Mはそれに興味を覚えてその後をつけようと思いだした。一方学生は四辺に気を配りながらそっと扉を開けて廊下へ出た。
 それと見てMも上衣を引っかけて廊下へ出た。学生は後を気にするように、時おり揮り返りながら廊下の行詰りへ往って、それから階段をおりて往った。Mも蝙蝠のように体を壁へくっつけくっつけして学生を追って往った。階段を降りた処に運動場へ出る扉があって、それには錠をおろしてあった。学生はそれには見向きもしないで、扉の端にある下駄箱の上へよじのぼった。下駄箱の上には明りとりの横窓があった。そこで学生はまた四辺に注意しておいて、その横窓の硝子扉を開けて猫のように這って外へ出たが、それは馴れた身のこなしであった。
 階段の上からそれを見ていたMも、すぐその真似をして外へ出た。外は運動場であった。みると学生は白い霧の中へ黒い影を落しながらどんどん向うの方へ往っていた。そうなるとMも小走に走らなくてはならなかった。そして、彼の堤まで往ったところで学生の姿が見えなくなった。
 堤の向うは墓場であった。Mはそこで奴め墓場で何人かと媾曳でもするのかと思った。Mはますます面白くなったので、堤を越えて墓場へおりた。
 墓場には学生の姿は見えなかった。しかし、墓場以外に往ったと思われないので、Mは石碑と石碑の間を探して歩いたが、どうしても見つからなかった。三十分近くも彼方此方してへとへとになったので、一つの大きな石碑の傍へ立って足を休めながら、見るともなしにひょいと前の方を見た。と一間くらいの処に地を掘りかえしたような処…

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