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あさひの鎧
あさひのよろい
著者国枝 史郎
文字遣い新字新仮名
底本 「あさひの鎧(下)」 国枝史郎伝奇文庫、講談社
1976(昭和51)年9月20日
「あさひの鎧(上)」 国枝史郎伝奇文庫、講談社
1976(昭和51)年9月20日
初出「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
入力者阿和泉拓
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-12-04 / 2018-11-28
長さの目安約 495 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

観世縒りの人馬

「飛天夜叉、飛天夜叉!」
「若い女だということだね」
「いやいや男だということだ」
「ナーニ一人の名ではなくて、団体の名だということだ」
「飛天夜叉組ってやつか」
「術を使うっていうじゃアないか」
「摩訶不思議の妖術をね」
「宮方であることには疑がいないな」
「武家方をミシミシやっつけている」
「何がいったい目的なんだろう?」
「大盗賊だということだが」
「馬鹿を云え、勤王の士だよ」
「武家方が宮方を圧迫して、公卿衆や坊様を捕縛しては、拷問をしたり殺したりする。そこで捕縛をされないように、宮方の人々を逃がしてやったり、捕えられた人を取り返したり、いろいろやるということだ」
 正中年間から延元年間へかけて飛天夜叉の噂は大変であった。
 昭和年間から推算すると、その時代はおよそ六百年前で、後醍醐天皇、大塔宮、竹の園生の御方々は、申すもかしこき極みであり、楠木正成、新田義貞、名和長年というような、南朝方の勤王の士や、北条高時、足利尊氏、これら逆臣の者どもが、歴史の上に華やかに、名を連ねていた時代なのである。
 そういう時代のある一日――詳しくいえば正中元年八月××日の真昼時に、土岐小次郎という若い武士が、洛外嵯峨の草の上に、ボンヤリとして坐っていた。
 近くの丘には櫨の叢が、[#挿絵]のように紅葉し、その裾には野菊や竜胆の花が、秋の陽を浴びて咲いていた。
 不意に横から声がかかった。
「小次郎様愉快ですか?」
 小次郎は吃驚してそっちを見た。
 二十三四の美しい女が、いつの間にどこから来たものか、彼の横に坐っていた。
「愉快でないです」
 と小次郎は云った。
「それほどの美貌を持ちながら、愉快でないとは変ですね」
「何を厭なことをおっしゃるんです」
「年はたしか二十歳でしたね」
「どうしてそんなことをご存知なので?」
「妾は何んでも知っているのです」
 その女は微妙に笑った。
 顔の筋肉は笑っているが、眼だけは決して笑っていないと、そう云ったような笑い方なのである。
「美濃の名族土岐蔵人頼春、このお方の一族で、学問も武芸もお出来になるが、美貌が祟って身がもてない、それに気が弱くて感情ばかり劇しい、その上に徹底した放浪性の持ち主、そこで何をしても満足しない。することもなくボンヤリしておられる。――というのがあなたのお身の上でしょうね」
「どうしてそんなことまでご存知なのです?」
「わたしは何んでも知っているのです」
 またその女は例の笑いを笑った。
「その美貌をわたしに売ってください」
「何んですって! 何をおっしゃるんです」
「それをわたしに使わせてください」
「…………」
「あなたを仕込んであげましょう」
「あなたはいったい誰なんです」
「一芸のある人間や、特色のある人間を集め、仕込んでやるという道楽を持った、そういう女なのでございますの」
「…

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