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朝倉一五〇
あさくらいちごれい
作品ID45548
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-09 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 洋画家の橋田庫次君の話であるが、橋田君は少年の頃、吾川郡の弘岡村へ使いに往って、日が暮れてから帰って来たが、途中に荒倉と云う山坂があって、そこには鬼火が出るとか狸がいるとかと云うので、少年の橋田君は鬼魅がわるかった。
 橋田君はその時自転車に乗っていた。やがて荒倉の麓へ来たので、自転車をおりて、それを押し押しあがって往ったが、暗くはなるし人っ子一人通らないのでひどく淋しかった。そしてやっとの思いで峠へたどりついた。峠には一軒の茶店があって、門口に提灯を点けた一台の人力車がいたが、それには朝倉一五〇としてあった。朝倉一五〇の提灯を持っているからには、朝倉の車夫であろう。兎にかく一休しようと思って茶店の入口へ往った。すると傍から声がした。
「哥さん、どうせ乗って往きや」
 どうせ乗って往きやという事は変ないいまわしであった。橋田君は厭な気がした。そこで、
「うん」
 と云ったきりで、茶店へ寄る事もよして、そのまま自転車に飛び乗って坂路を駈けおりた。
 かなり勾配のある坂路であるから、自転車はすうすうと滑って往った。そして、中央まで往ったところで、後から一台の人力車が来て、橋田君の自転車を駈けぬけて走ったが、すこしも轍の音を立てなかった。橋田君はどうした車だろうと思って眼をやった。車には朝倉一五〇の提灯が点いていた。橋田君は眼を[#挿絵]った。一生懸命に駈けおりている自転車を、あれからすぐ追っかけて来たところで、人間わざでは駈けぬけることはできない。橋田君はちょっと変に思った。
 やがて麓へおりて、途が二つに岐れた処へ往った。その路を左へ往けば、朝倉連隊に往くようになっていた。と、見ると、地の底からでも出て来たように、そこへ一台の人力車が来て、朝倉連隊へ往く方の路へ折れて往った。橋田君はおやと思ってそれに眼をやった。その車にも朝倉一五〇の提灯が点いていた。



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