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簪につけた短冊
かんざしにつけたたんざく
作品ID45554
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-23 / 2014-09-21
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 日本橋区本町三丁目一番地嚢物商鈴木米次郎方の婢おきんと云うのが、某夜九時すぎ裏手にある便所へ入ろうとして扉をあけると、急に全身に水を浴びせられたようにぞっとして、忽ち頭の毛がばらばらと顔の上へ落ちて来てまるで散髪頭のようになった。婢は悲鳴をあげて隣家の曲淵方へ駈け込むなり、ばったり倒れて気絶してしまった。人びとは驚いて、水や薬などを飲ませて蘇生させ、その訳を聞いて一層胆を潰した。人びとは手に手に棍棒や箒などを持って彼の厠へ駈けつけたが、べつに変ったことはなく髷が入口に無気味な恰好で落ちていただけであった。
 そこで初めて、人びとはこれが俗に云う髷きりだと云うことを知ったが、それ以来彼の厠は何人も使わなくなった。
 これは明治七年三月十日の東京日日新聞に載っていた話であるが、日日子はそれに就いて、このことはいつか浅草金龍山内にもあった。故老の話では四五十年前にも一度あったが、その時は女たちが簪に小さな短冊をつけて、魔よけにしたと云って、その歌を引いてある。
かみきりや姿を見せよ神国のおそれを知らばやくたたらざれ



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