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白い小犬を抱いた女
しろいこいぬをだいたおんな
作品ID45556
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」 学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-14 / 2014-09-21
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 某夜、某運転手が護国寺の墓地を通っていると、白い小犬を抱いた女が来て車を停めた。そこで運転手は女の云うままに逢初橋まで往くと、女が、
「ちょっと待っててね」
 と云って、犬を抱いたままおりて、傍の立派な門構の家へ入って往ったが、一時間近くなって出て来ないので、運転手はしかたなしにその家へ往った。すると一人の老婦人が出て、
「私の家には、女の子はいないのですが」
 と云った。運転手はそれまでは[#「それまでは」はママ]乗り逃げをせられたのかと思いながら、やるともなしに土間へ眼をやった。土間には彼女の抱いていた小犬がちょこなんと坐っていた。
「この犬を抱いて来た方ですよ」
 すると老婦人の顔色が変った。
「この犬を、この犬ですって」
 そこで運転手は一とおりその女の容貌を話した。みるみる老婦人の眼に涙が湧いた。
「それでは、やっぱり家の娘でございますよ、明日が一周忌になりますから、それで帰って来たものですよ」
 老婦人はそれから土間へおりてその小犬を抱きあげた。



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