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ウォリクの城
ウォリクのしろ
作品ID45635
著者野上 豊一郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「西洋見學」 日本評論社
1941(昭和16)年9月10日
入力者門田裕志
校正者染川隆俊
公開 / 更新2011-04-28 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

This castle hath a pleasant seat ; the air
Nimbly and sweetly recommends itself
Unto our gentle senses.
―― Macbeth




 ウォリクは城で持つ町で、ウォリクの城は「イギリスの封建時代の貴族の居城のうちでも最も壯大なもので、今も貴族の住居のままである」といふことに依つて有名である。ストラトフォド・オン・エイヴォンへは南西八マイル、バーミンガムへは北西二十マイルで、ロンドンからいへば北西百八マイルの位置にある。
 すぐ近く(北方四マイル)にはケンルワスの古城があり、ウォリクと兩兩相竝んで壯大を誇る遺物であるが、歴史の上からも、風致の上からも、また今なほ昔の城主の遺族(ウォリク伯)が住まつてるといふ點からも、ウォリクの方が一層有名である。
 私たちはウォリクへはストラトフォドから行つた。城の見物には時間がかかりさうなので、どこかで晝飯をすまして置かうではないかといつてると、町に入つたすぐ左側に大きな三階建のテューダー・ハウスのカフェが目についたので、あれにしようといふことになり、一度通り過ぎた車を引つ返した。例の暗褐色の樫の骨組を白堊の壁の上にむきだして、ストラトフォドで見た同種の樣式よりは少し田舍臭くせせこましく出來てるが、一階よりも二階、二階よりも三階と、上に行くだけ往來の方へ張り出して、屋根にはアティクになつた三階の窓の一つ一つを圍つた小さい破風が四つほど竝んでるのも古風でよい。しかし、内部はもつと古風で、正面には煉瓦を屋根型に葺いた前飾を持つ大きな暖爐があり、天井はばかに高く、壁には角附きの鹿の首や舊式の鐵砲やらが飾つてあり、壁に寄り添つて取り附けてある階段の踊り場からは、今にも胴衣の上に短い外套を引つ掛けて、太腿まで見せた長靴下の危なかしい足どりでヂンの[#挿絵]りを見せながら、界隈の郷士たちがどやどやと下りて來さうにも思はれた。
 相客はほかに二組ほどあつた。表の看板は“WALKER”と出てゐたが、いつ頃からの建物だと聞いたら、おかみは得意さうに十五世紀以來のテューダー・ハウスでございますと答へた。
 其處を出て城の方へ坂を上つて行くと、上り詰めた右側に高く、同じやうな樣式の、但し、ずつと品格のある建物が、私たちの目を惹いた。レスターの病院と呼ばれ、十四世紀に職業組合の慈善事業のために建てられたのを、後でレスター伯が老傷病兵の靜養所に提供したものださうだ。中庭が一見に値するといふことだが、行手を急いでたので割愛した。



 ウォリクの城の表門の前に立つた時は、來てよかつたと思つた。奧は深くて見通せないが、一見して堂堂たる城廓であることが直感され、一人二シリングの入場料も高くは思へなかつた。但し、伯爵閣下の現在の居城であるためか、門衞…

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