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深夜の電話
しんやのでんわ |
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作品ID | 45651 |
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著者 | 小酒井 不木 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」 論創社 2004(平成16)年7月25日 |
初出 | 「子供の科学」1928(昭和3)年1~5月号 |
入力者 | 川山隆 |
校正者 | 小林繁雄 |
公開 / 更新 | 2005-12-07 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 41 ページ(500字/頁で計算) |
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第一回
一
木の茂れば、風当たりの強くなるのは当然のことですが、風当たりが強くなればそれだけ、木にとっては心配が多くなるわけです。
少年科学探偵塚原俊夫君の名がいよいよ高くなるにつれて、俊夫君を妬んだり、俊夫君を恐れたりする者が増え、近頃では、ほとんど毎日といってよいくらい、脅迫状が舞い込んだり脅迫の電話がかかってきたりします。
たとえば俊夫君がある事件の解決を依頼されると、解決されては困る立場の者から、脅迫状を送って俊夫君に手を引かせようとします。あるいは俊夫君がある事件を解決して多額の報酬を貰うと、それを羨んで、金員を分与せよなどという虫のいい要求を致してきます。
俊夫君は、それらの脅迫状や脅迫電話を少しも気にはしておりませんが、俊夫君の護衛の任に当たる私は気が気ではありません。皆さんは多分、私が「塵埃は語る」という題目の下に記述した事件を記憶していてくださるでしょうが、あの事件があって以来、私はできるだけ注意して、俊夫君と一刻も離れないように警戒しているのであります。
まったく、こんなに心配が増しては、有名になるのも考え問題ですが、それかといってどうにも致し方がありません。ことに、解決を望む人々が事件の解決を見て喜ぶ有様に接するたびごとに、私は、俊夫君がいかなる場合にも成功するよう祈ってやまないのであります。
これから、私が皆さんにお伝えしようとする話も、いわば俊夫君の名声の高いのが基となって起こった奇怪な事件です。世の中にはずいぶん物好きな人間もありますが、この事件に出てくる人物のような人間に出会ったことは初めてです。いや、こんな前置きに時間を費やすよりも、早く事件の本筋に入りましょう。
それは年の暮れも差し迫った十二月下旬のことです。諸官庁や諸会社のボーナスが行き渡って、盗賊たちが市中や郊外を横行しようとする時分のある夜、ふと私は電話のベルに眼をさましました。見ると、隣のベッドで寝ている俊夫君が、すでに起きようとしておりましたので、
「まあ、寝ていたまえ、僕が出るから」
と言いますと、俊夫君は、
「それじゃ、一緒に行こう。こんな時分にかかってくる電話は、どうせ僕に用があるに違いないから」
で、二人は、寝衣の上に外套を羽織って事務室に行きました。かねて私は、こういう場合の準備として、寝室に卓上電話を設けて、寝ていながら話せるようにしてはどうかと、俊夫君に勧めるのでしたが、俊夫君は、
「僕に用事のある人はみな重大な立場にいるのだから、寝ていて話すべきではない」
と言って聞き入れません。私はいささか寒さに身震いしながら、受話器を取りあげました。
「もしもし、あなたが俊夫さんですか」
と言ったのは、たしかに男の声です。
「いいえ、僕は大野というものです。俊夫君の代理です」
「では恐縮ですが、俊夫さんに出てもらってく…