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魔法探し
まほうさがし
作品ID45695
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話作品集1 夢の卵」 銀貨社
1999(平成11)年12月17日
入力者田中敬三
校正者noriko saito
公開 / 更新2007-10-30 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 むかし、ペルシャに大変えらい学者がいました。天地の間に何一つ知らないことはないというほど、あらゆる学問をきわめつくした人で、国王や人民達から非常に尊敬されていました。
 ところがある日、高い塔の上から濠の中に落ちて死んだ人を見て、彼はこう考えました。
「鳥は空を飛ぶことができるし、魚は水の中を泳ぎ廻ることができる。それなのに人間だけは、空を飛ぶこともできず水にもぐることもできない。なぜだろう。もしそういうことができたなら、人間は塔から落ちても死なないですむし、水の中に落ちても溺れずにすむのだが……」
 そしていろいろ考えたすえ、彼はふと魔法使いの話を思い出しました。子供の時お祖母様から聞いた話で、自由自在に空を飛んだり水にもぐったりするというのです。けれどもそれはただ話に聞いただけで、いくら彼が学者でも、まだ魔法だけは知らないのでした。
「話にある以上は、実際にあることかもしれない。私はもう世の中のあらゆる学問をしつくしたのだから、これから魔法を学んでやろう」
 そう決心した彼は、いろんな古い書物を調べたりいろんな人に尋ねたりしましたけれど、どうしたら魔法が使えるかさらに分かりませんでした。けれども、魔法使いの話が伝わっているからには、どこかにそういう者がいるに違いありません。
 そこで彼は、王様や人々に別れを告げ、多くの旅費を用意して驢馬に乗って、魔法使いを探しに出かけました。
 幾年も彼は旅を続けました。魔法使いの住居を、遠くから来た旅人や方々の学者に尋ねたり、自分で探し廻ったりしましたが、どうしても分かりませんでした。しまいには、用意の旅費もなくなってしまい、驢馬を売り払った金も使ってしまい、乞食のような旅をしなければならなくなりました。それでも彼は決心を変えませんでした。どうにかしてその日の食物を手に入れながら、方々の土地を歩き廻りました。
 さらに幾年かの後、彼はある広い広い森の中に迷い込みました。いくら行っても森ばかりで、人の姿はおろか、人の通った跡さえも見えません。何千年経ったとも分からない大木が立ち並んでいて、その枝葉の茂みで空を隠していて、昼は日の光も見えず、夜は月の光もささず、地面には落葉が堆く積もって、気味の悪い苔などが生えています。彼は落ちてる木の実や苔の間の茸などを食べ、ところどころに湧き出てる泉の水を飲み、疲れると一枚の毛布にくるまって落葉の上に眠り、そしてただ真っ直ぐに歩いて行きました。けれどやはり、どこまで行っても森ばかりです。
 そうして幾日か経った後、彼は木の実をかじりながら歩いていますと、ふと向こうに、晴れやかな日の光を見いだして、小踊りせんばかりに喜びました。長い間の疲れも忘れはてて、急いでやって行きますと、まあどうでしょう、森の中に大きな池がありまして、澄みきった綺麗な水がいっぱいたたえていまして、…

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