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作品ID | 45699 |
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著者 | 豊島 与志雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「天狗笑い」 晶文社 1978(昭和53)年4月15日 |
入力者 | 田中敬三 |
校正者 | 川山隆 |
公開 / 更新 | 2007-02-03 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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一
――皆さんは、人間の身体は右と左とまったく同じだと、思っていますでしょう。右と左とにそれぞれ、眼が一つ、耳が一つ、鼻が半分、口が半分、手が一つ、足が一つ……。まんなかから切ってみると、右と左とは、まったく同じように見えます。ところが、よくしらべてみると、ずいぶんちがっています。いくら神様でも、生きた人間の身体を、右と左とまったく同じにこさえることは、おできにならなかったのでしょう。自分の顔やひとの顔を、よく見てごらんなさい。眼でも耳でも、右と左では、その大きさや形がみなちがっています。右と左と同じなものは、けっしてありません。手なんか、大きさも長さもちがうし、力もちがいます。ことに、胸の中や腹の中になると、右と左とはひどくちがってるものです。それですから、たとえば、目かくしをして、広いところを、歩いてみてごらんなさい。けっしてまっすぐに歩けるものではありません。自然に、右か左かにまがってしまいます。人間は、どんなりっぱな身体のひとでも、右と左とはかたわです……。
そういう話を、先生がなさいました。
なるほど、よく見ると、眼でも耳でも、右と左とは同じ形ではありません。
おかしいな、と子供たちは思いました。
が、なおおかしいのは、目かくしをしてまっすぐに歩けないことでした。自分ではまっすぐに歩いてるつもりでも、いつのまにか少しずつ、右か左かへまがってしまいます。
「みんなかたわだ」
「なに、かたわなもんか」
「じゃあ、野原にいってやってみよう」
「ようし。みんなこいよ」
二
広いたいらな野原でした。春さきのことで、日がうららかにてっています。芝草が青々とのびだしています。蝶がとんでいます。空には高く、雲雀がないています。
みんなでじゃんけんをして、勝ったものが一番先に、ハンケチで目かくしをして、まっすぐに歩きだしました。ほかの者は立って見ています。
目かくしをした者は、まっすぐに歩いてるつもりですが、やがて、右か左かに少しずつまがっていきます。それを見ると、みんなはわっとはやしたてました。けれど、笑った者もみな、自分の番になると、やはりまっすぐには歩けませんでした。
「こんどは僕だ、見ておれよ」
元気よくそういって、マサちゃんという子供が、目かくしをして、歩きだしました。
広い野原の中です。オイチニ、オイチニ……と調子をとってまっすぐに歩いていきます。
遠くなるにつれてだんだん小さく、帽子の下に白いハンケチの目かくしをしたその後姿が、まるで人形のようで……そしてふしぎにも、まっすぐに歩いていきます。
だいぶ行ってから、くるりと向きなおって、目かくしを取って、
「どうだい」
見ていた子供たちは、はじめびっくりして、ぼんやりして、それから急に手をたたいてほめました。
マサちゃんはもどってきました。
「君たちは…