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作品ID45876
著者坂口 安吾
文字遣い新字旧仮名
底本 「坂口安吾全集 03」 筑摩書房
1999(平成11)年3月20日
初出「都新聞 第一九七三七号」1942(昭和17)年9月30日
入力者tatsuki
校正者noriko saito
公開 / 更新2008-10-05 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 先頃、文芸銃後運動の講演会か何かゞあつて、壇上の諸家が期せずして一人も文学を語らなかつたといふので、この事実に非常に感動した文章を書いてゐた作家があつたけれども、僕にはどうも不思議な気持がするばかりで腑に落ちないこと夥しい。文学が直接戦争の役に立たないことは僕も承知してゐるから余り大きなことを言ふ元気はないのだけれども、これぐらゐ美事に自分の職業を卑下されると、いさゝかならず面喰ふ。なぜこの作家が潔く文士を廃業しないのか理解できぬ。
 戦国時代のあの暗澹たる戦乱の一番をしまひに至つて桃山文化といふ絢爛たる開花があつたり、朝鮮へ遠征軍を送るやうな奇妙な底力があつたり、だから僕は百年戦争といふことに就て、日本人のそれに耐へうる精神力といふことに就ては割合に楽観した考へを持つてゐるのである。
 然し、あの長い戦乱の最後に至つて尚朝鮮へ大遠征軍を送り得たといふことは、あの時代に桃山文化といふ絢爛たるものがあつて、表裏一体の自信と余裕の世界をつくつてゐたからではないかと思ふ。
 僕は我々の百年戦争に当つて、何分文芸のこと以外には人並の抱負を持たないのだから、文学のことを語らない文学者の講演会などといふものに参加することはできないが、出来るならば、新らしい桃山文化の絢爛たる開花の方に一作ぐらゐは筆の跡を残したいといふことを考へてゐる次第。分に過ぎたる野望であるかも知れません。



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