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双子の星
ふたごのほし
作品ID459
著者宮沢 賢治
文字遣い新字新仮名
底本 「新編 銀河鉄道の夜」 新潮文庫、新潮社
1989(平成元)年6月15日
入力者野口英司
校正者
公開 / 更新1997-10-29 / 2014-09-17
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   双子の星 一

 天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。
 このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っています。夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛を吹くのです。それがこの双子のお星様の役目でした。
 ある朝、お日様がカツカツカツと厳かにお身体をゆすぶって、東から昇っておいでになった時、チュンセ童子は銀笛を下に置いてポウセ童子に申しました。
「ポウセさん。もういいでしょう。お日様もお昇りになったし、雲もまっ白に光っています。今日は西の野原の泉へ行きませんか。」
 ポウセ童子が、まだ夢中で、半分眼をつぶったまま、銀笛を吹いていますので、チュンセ童子はお宮から下りて、沓をはいて、ポウセ童子のお宮の段にのぼって、もう一度云いました。
「ポウセさん。もういいでしょう。東の空はまるで白く燃えているようですし、下では小さな鳥なんかもう目をさましている様子です。今日は西の野原の泉へ行きませんか。そして、風車で霧をこしらえて、小さな虹を飛ばして遊ぼうではありませんか。」
 ポウセ童子はやっと気がついて、びっくりして笛を置いて云いました。
「あ、チュンセさん。失礼いたしました。もうすっかり明るくなったんですね。僕今すぐ沓をはきますから。」
 そしてポウセ童子は、白い貝殻の沓をはき、二人は連れだって空の銀の芝原を仲よく歌いながら行きました。
「お日さまの、
 お通りみちを はき浄め、
 ひかりをちらせ あまの白雲。
 お日さまの、
 お通りみちの 石かけを
 深くうずめよ、あまの青雲。」
 そしてもういつか空の泉に来ました。
 この泉は霽れた晩には、下からはっきり見えます。天の川の西の岸から、よほど離れた処に、青い小さな星で円くかこまれてあります。底は青い小さなつぶ石でたいらにうずめられ、石の間から奇麗な水が、ころころころころ湧き出して泉の一方のふちから天の川へ小さな流れになって走って行きます。私共の世界が旱の時、瘠せてしまった夜鷹やほととぎすなどが、それをだまって見上げて、残念そうに咽喉をくびくびさせているのを時々見ることがあるではありませんか。どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。けれども、天の大烏の星や蠍の星や兎の星ならもちろんすぐ行けます。
「ポウセさんまずここへ滝をこしらえましょうか。」
「ええ、こしらえましょう。僕石を運びますから。」
 チュンセ童子が沓をぬいで小流れの中に入り、ポウセ童子は岸から手ごろの石を集めはじめました。
 今は、空は、りんごのいい匂いで一杯です。西の空に消え残った銀色のお月様が吐いたのです。
 ふと野原の向うから大きな声で歌うのが聞えます。
「あまのがわの にしのきしを、
 すこ…

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