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独絃哀歌
どくげんあいか |
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作品ID | 46162 |
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著者 | 蒲原 有明 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「日本現代文學全集 22 土井晩翠・薄田泣菫・蒲原有明・伊良子清白・横瀬夜雨集」 講談社 1968(昭和43)年5月19日 |
初出 | 初出:例言「獨絃哀歌」白鳩社<br> 1903(明治36)年5月<br> 獨絃哀歌 (十五首)「明星」<br> 1901(明治34)年8月<br> 靈鳥のうた「獨絃哀歌」白鳩社<br> 1903(明治36)年5月<br> 佐太大神「明星」<br> 1902(明治35)年<br> 新鶯曲「新聲」<br> 1902(明治35)年<br> 星眸「新聲」<br> 名珠餘影「明星」<br> 1902(明治35)年 |
入力者 | 広橋はやみ |
校正者 | 荒木恵一 |
公開 / 更新 | 2015-03-10 / 2015-10-19 |
長さの目安 | 約 23 ページ(500字/頁で計算) |
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哀調の譯者に獻ず
例言
一、この小册子に蒐めたる詩稿は曾て「太陽」「明星」其他二三の雜誌に載せて公にしたるものなり、ここに或は數句或は數節改刪して出せり。
一、諸篇中「小鳥」「星眸」等の如きは最も舊く、其他多くは一昨年の秋このかたの作なり。ただ「靈鳥の歌」のみ未だ公にせざりしものこれを最近の作となす。
一、詩形に就ては多少の考慮を費せり、されどこれを以て故らに異を樹てむとするにはあらず。
一、表紙及挿畫は友人山下幽香氏の手を煩したり。
明治卅六年四月
著者しるす
獨絃哀歌
(十五首)
附載三首
一
あだならまし
道なき低き林のながきかげに
君さまよひの歌こそなほ響かめ、――
歌ふは胸の火高く燃ゆるがため、
迷ふは世の途倦みて行くによるか。
星影夜天の宿にかがやけども
時劫の激浪刻む柱見えず、
ましてや靡へ起き伏す靈の野のべ
沁み入るさびしさいかで人傳へむ。
君今いのちのかよひ路馳せゆくとき
夕影たちまち動き涙涸れて、
短かき生の泉は盡き去るとも、
はたして何をか誇り知りきとなす。
聖なるめぐみにたよるそれならずば
胸の火歌聲ともにあだならまし。
二
聖菜園
こころの糧をわがとる菜園こそ
榮なき思ひ日毎に耕すなれ。
ある時ひくき緑はここに燃えて
身はまた夢見ごこちにわづらふとも
時には恐怖に沈むかなしき界の
地獄の大風強く吹きすさみて、
ここにぞ生ふる命の葉は皆枯れ、
歡樂冀願もあだに消え去るとも、
ああただかの花草や、(羽なくして
ささやく鳩にも似るか、)そのにほひに
涸れにし泉ふたたび流れ灌ぎ、
ああまた荒れにし土の豐かなる時、
盡きせぬ愛の花草讃めたたへて
聖菜園のつとめに獨りゆかむ。
三
薔薇のおもへる
黄金の朝明こそはおもしろけれ、
狹霧に匂ひてさらばさきぬべきか。
嘆かじ、ひとり立てどもわが爲めいま
おもふに光ぞ照らす、さにあらずや。
嘆かじ、秋にのこりて立ちたれども、
小徑を、(さなり薔薇のこの通ひ路、)
世にまた戀にゆめみるものの二人、――
嗚呼今靜かにさらばさきぬべきか。
少女は清き涙に手さへ顫へ、
をのこは遠きわかれを惜みなげく、
あまりに痛きささやき霜に似たり。
かたみのこれよ花かと摘まれむとき
音なく色に映るもわりなきかな、
二人を知らで過ぎ行く、――將た嘆かじ。
四
別離
別離といふに微笑む君がゑまひ、
わかるるせめての際にそは何ゆゑ。
にほへる面わの罪か、世も、ねがひも、
希望も、かつてかがやくその光に、
眼のいろ澄める深淵その流に、
華やぐ聲ねのあやに、――かつて頼る
わが身のその幸限りあらざりしを、
ああなど君がゑまひに罪あるべき。
白日薔薇の花に射かへすとき、
亂るる影さへもなく紅なる
色こそ君が面わに照り映ゆらめ。
げにはた常住のゑまひや、嫉き花の
榮あるたはぶれとしもおもひ…