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探検実記 地中の秘密
たんけんじっき ちちゅうのひみつ
作品ID46184
副題07 末吉の貝塚
07 すえよしのかいづか
著者江見 水蔭
文字遣い旧字旧仮名
底本 「探檢實記 地中の秘密」 博文館
1909(明治42)年5月25日
入力者岡山勝美
校正者岩澤秀紀
公開 / 更新2012-03-12 / 2018-12-11
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

――神奈川方面不有望――草刈と大衝突――家族擧つての發掘――非學術の大發掘――土器一箇千圓の價?――

 玉川向ふ、即ち神奈川縣下に屬する方面には、餘り有望の貝塚は無い。いや貝塚としては面積も廣く、貝層も深いのが無いでも無いが、土器の出方が甚だ惡い。矢上然り、高田然り、子母口然り、駒岡、子安、篠原、樽箕輪最も不有望。
 其中で、末吉の貝塚は、稍望みがある。望蜀生が完全なる土器の蓋を掘出して來たので、急に行きたい氣に成り、三十六年十二月十四日に、幻花翁、望蜀生、玄川子との四人連、品川から汽車で鶴見、それから一里弱、下末吉村へと行つた。
 一寸知れ難い處である。遺跡は廣いが、先年、チヤンバーレン氏が大發掘を試みたとかで、畑地の方は斷念して、臺地北側の荒地緩斜面の中に四人は入つた。
 小さな杉や、丈よりも長い枯萱が繁つて居るので、誰が何處に居るのやら分らぬ。
 右端を玄子。それから余。それから幻翁。それから左端を望生。これで緩斜面を掘りつゝ押登らうといふ陣立。
 木の根草の根が邪魔をして、却々掘り難い。それに日は當らぬ。寒くて耐らぬ。蠻勇を振つて漸く汗を覺えた頃に、玄子は石劒の柄部を出した。
 その他からは、一向珍品が出ぬ。破片は多いけれど、繼いで見る樣なのは出ぬ。中食後に、余は、土瓶の口の上下[#ルビの「うへした」は底本では「へした」]に、ツリを取つた破片を出した位。
 玄翁と望生とは、朱の附着せる貝殼を出したのみ。
 失敗して此日は切上げた。
 三十七年の正月二日、掘初として余は望玄二子を從へて行つて見ると、這は如何に、掘りかけて居た穴の附近に、大男が六七人居る。然うして枯萱を刈つて居る。ちと具合が惡いので、三人其所に立つて居ると、それと知つた男子達は、聽えよがしに高話である。何處の奴だか、這んな大穴を穿けやアがつた。今度は見附次第、叩殺してやるといふ血腥い鼻息※[#感嘆符三つ、60-3]
 已むを得ず、一時、松林の方に退却したが[#「退却したが」は底本では「退却したか」]、如何も掘りたくて耐えられぬ。それで余と玄子とは松林に待ち、望生一人を遣つて『いくらか出すから、掘らして呉れ』と申込ましたのである[#「申込ましたのである」は底本では「申込ましたのてある」]。
 いくら立つても望生が戻つて來ぬ。これに心配しながら二人で行つて見ると、大變だ。殺氣立つて居る。
 草刈連は大鎌を捻くつて居る。
 望生は萬鍬を握〆めて居る。
 望生は余等の顏を見て、大いに氣を強くしたか。
『掘らせんといふなら掘らん。掘らうと思へば、どんな事を言つても屹と掘つて見せるが、ナニ、這んな糞ツたれ貝塚なんか掘りたくは無い』と叫ぶのである。
『何んと言ツても駄目だア。子供位ゐ正直な者はねえからね』と向ふではいふ。
 形勢甚だ不穩なので、余は兎も角も、望蜀生を呼んで、小聲で。
『如何したのか』…

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