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![]() きがんじょう |
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作品ID | 46187 |
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副題 | アルセーヌ・ルパン アルセーヌ・ルパン |
原題 | L'AIGUILLE CREUSE |
著者 | ルブラン モーリス Ⓦ |
翻訳者 | 菊池 寛 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「小學生全集第四十五卷 少年探偵譚」 興文社、文藝春秋社 1928(昭和3)年12月25日 |
入力者 | 京都大学電子テクスト研究会入力班 |
校正者 | 京都大学電子テクスト研究会校正班 |
公開 / 更新 | 2006-05-24 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 116 ページ(500字/頁で計算) |
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一 夜半の銃声
懐中電灯の曲物
レイモンドはふと聞き耳をたてた。再び聞ゆる怪しい物音は、寝静った真夜中の深い闇の静けさを破ってどこからともなく聞えてきた。しかしその物音は近いのか遠いのか分らないほどかすかであって、この広い屋敷の壁の中から響くのか、または真暗な庭の木立の奥から聞えてくるのか、それさえも分らない。
彼女はそっと寝床から起き上って、半分開いてあった窓の戸を押し開いた。蒼白い月の光は、静かな芝草の上や叢の上に流れていた。その叢の蔭の方には、古い僧院の崩れた跡があって、浮彫の円柱や、壊れた門や、壊れた廻り廊下や、破れた窓などが悲惨な姿をまざまざと露わしていた。夜のかすかな風が向うの森の方から静かに吹いてきた。
と、またも怪しい物音……それは下の二階の左手にある客間から響くらしい。
レイモンドは勇気のある少女であったが、何となく恐ろしくなってきた。彼女は寝衣の上に上着をまとった。
「レイモンドさん!レイモンドさん!」
境の戸の閉めてない隣りの室から、細くかすかな声が聞えたので、レイモンドはその方へ探り探り行こうとすると、従妹のシュザンヌが室から出てきて腕に取り縋った。
「レイモンドさん……あなたなの?あなたも聞いて!」
「ええ……あなたも目を覚ましたのね!」
「私、きっと犬の声で起きたのよ……もうしばらくしてよ。けれどももう犬は鳴かないわね……今何時でしょう?」
「四時頃だわ。」
「あら! お聞きなさい。誰か客間を歩いているようよ。」
「でも大丈夫よ、お父様が階下にいるんですもの、シュザンヌさん。」
「でもかえってお父様が心配だわ。」
「ドバルさんが一緒にいらしってよ。」
「でもドバルさんはあっちの端よ、どうして聞えるものですか。」
二人の少女はどうすればいいのか迷ってしまった。声を上げて救いを呼ぼうかと思ったが、自分らの声を立てるのさえ恐ろしくて出来なかった。窓の方へ近づいたシュザンヌは喉まで出た声をかみしめて、
「ごらんなさい…… 噴水の脇の男を!」
なるほど、一人の男が何やら大きな包を小脇に抱えて、それが足の邪魔になるのを払い払い、足早に走っていく。曲者は古い礼拝堂の方へ走って土塀の間にある小門の蔭に消えてしまった。その戸は開けてあったと見えて、いつものように戸の開く音がしなかった。
「きっと客間から出てきたのよ。」とシュザンヌが囁いた。
「いいえ、違うわ。客間の方からならもっと左の方に現われなければならないはずよ、でなければ……」
と、いいながら二人はふと気づいて窓から見下すと、一挺の梯子が階下の二階に立て掛けてあった。そしてまた一人やはり何か抱えた男が梯子を伝い降り、前と同じ道を逃げていくのだった。シュザンヌは驚いてよろよろと膝をつきながら、
「呼びましょう……救けを呼びましょう。」
「誰が来てくれるかしら、お父様には聞える…