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巡回書庫と町村図書館と
じゅんかいしょことちょうそんとしょかんと
作品ID46208
著者佐野 友三郎
文字遣い新字新仮名
底本 「個人別図書館論選集 佐野友三郎」 日本図書館協会
1981(昭和56)年9月7日
初出「山口県立山口図書館報告 第四」1906(明治39)年1月
入力者鈴木厚司
校正者小林繁雄
公開 / 更新2007-12-31 / 2014-09-21
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 余等は戦後教育上の経営として、通俗図書館がきわめて重要の地位を占むべしといえり。しかして、今や図書館経営の機運、まさに熟しこれが設立はいたるところに計画せられつつあり。余等、今日において早く自ら進みてこれが経営に着手せざれば、他日、社会の大勢に余儀なくせられて、これが設備を強いられんこと必せり。
 本邦に於ける巡回書庫は、余等、さきにこれを秋田県に試み、今日、これを本県に施設せるのみなれば、これが成績としては、徴すべきもの多からざれども、これを米国に見るに、巡回書庫は、町村図書館の先駆として、随処に歓迎せられつつあるなり。千八百九十三年、ニユーヨーク州において、始めて巡回書庫を施設するや、幾もなくして「読書趣味は日増に喚起せられ遂に閲覧室の設立を促せり」との報告に接し、ついで「巡回書庫はいたる処に善良なる読書趣味を振興し既に数箇村に重要なる地方図書館の設立を促せり」といい、「巡回書庫は町村をして民衆に図書を供給するの必要を始めて誠実に自覚せしめたり」というがごとき報告に接せり。
 米国においては各州とも、多くは、町村図書館の設立を促すの目的にて巡回書庫を設備し、しかして既によくその目的を達し、今や盛にこれが普及を計りつつあり。例せば、ウイスコンシン州のごときは、千八百九十八年に於て、人口千五百人以下の村落にありて無料図書館を有するもの僅々三箇村に過ぎざりしに、州が巡回書庫の設備によりて奨励したる結果、二年以内に、巡回書庫を利用して図書館を新設したるもの二十箇村に達し、ミネソタ州においては、巡回書庫の施設に全力を傾注したる結果、五箇年内に、三十五館より七十館に倍加せり。この径路は大抵、一様なり。試みに、図書館なき町村において、巡回書庫の回付を受けたりとせよ、これを利用する者、日々多きを加え、需要は供給を圧して巡回書庫に満足せず、遂に図書館の設立を見るを常とす。これを例せんに、未だ菓子を味わざる児童は、これを眼前に見るも、敢て求むることなけれども、一たび、これが甘味を経験すれば、絶叫、強請、これを得ざれば止まざるがごとく、町村の公衆も、巡回書庫によりて、始めて読書趣味を喚起せられ、自ら図書館を設立するにあらざれば満足せざるなり。
 我山口図書館の巡回書庫は、故ありて少しく事情をことにし、郡市の請求を待たず、本館より自ら進みてこれを供給するものなれば、郡市は自ら受働的となり、無償にて得らるるがために、あるいはこれを藐視することなきか。余等は、郡市が社会の趨勢に鑑み、巡回書庫を骨子として、図書館経営の歩を進めんことを茲に再び促さざるを得ず。
附記 町村にて公私立又は小学校附設図書館(閲覧所)を設けたるとき本館当事者においてこれが管理の法、確実なりと認めたる場合に限り、その請求に応じて、本館より巡回書庫を供給するの法を設けんと欲し、当事者において現に考案中なり。…

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