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解釈学と修辞学
かいしゃくがくとしゅうじがく
作品ID46212
著者三木 清
文字遣い新字新仮名
底本 「現代日本思想大系33」 筑摩書房
1966(昭和41)年5月30日
初出「哲学及び宗教と其歴史(波多野精一先生献呈論文集)」岩波書店、1938(昭和13)年9月
入力者文子
校正者川山隆
公開 / 更新2011-11-08 / 2014-09-16
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ギリシア人の産出した文化の一つに修辞学がある。それはなかんずくアテナイ文化において――プラトンの伝えるようにアテナイ人は言葉を愛し、多く語ることを好んだ(φιλ※[#鋭アクセント付きο、U+1F79、380-上-9]λγ※[#鋭アクセント付きο、U+1F79、380-上-9][#挿絵] τ[#挿絵] κα※[#重アクセント付きι、U+1F76、380-上-9] πολ※[#鋭アクセント付きυ、U+1F7B、380-上-9]λογο[#挿絵])――極めて重要な位置を占めていた。しかし今日、修辞学はほとんどまったく閑却されている。アリストテレスの諸著作のうちでも修辞学に関する書は恐らく最も研究されないものに属している。これに対して現代の哲学においてはなはだ大きな意義を獲得するに至ったのは解釈学である。解釈学はもと文献学の方法であるが、今日それは哲学の一般的方法にまで拡げられ高められている。解釈学もギリシアの啓蒙時代に修辞学と結びついて成立したものであるが、それが独立の学として発達するに至ったのはアレクサンドリア時代の文献学においてである。言い換えれば、修辞学がギリシア文化の開花期の産物であるに反して、解釈学はギリシア文化の発展が一応終結した後その黄昏にいわゆるミネルヴァの梟として現われたのである。そのことは解釈学の性質に相応している。すなわち解釈学はすでに作られたもの、でき上った作品に対して働く。すぐれた文献学者ベェクの言葉を借りれば、それは「認識されたものの認識」(das Erkennen des Erkannten)を目的としている。一般的にいえば、解釈学は過去の歴史の理解の方法である。これに反して修辞学はギリシアの活発な社会的実践的生活のさなかに発達させられたものである。解釈学が主として書かれた言葉、誌された文書に向うに反して、修辞学は主として話される言葉に属し、かつそれは法廷、国民議会、市場等における活動と結び付いて形成された。かくして解釈学も修辞学も共にロゴス(言葉)に関係するにしても、おのずからその性格、その実質を異にしている。
 現代における解釈学の哲学への導入によって多くのことが為し遂げられたのは否定することができぬ。それは特に、従来の、自然科学に定位した方法ないし論理によっては考えられない人間および歴史に関する哲学の方面において功績があった。しかしまた今日、解釈学的方法に対する不満が広く感ぜられるようになってきたことも事実である。我々は解釈学の立場を超えることを要求されている、もとより我々は解釈学によって為された貴重な諸発見を無視することを許されない。かくのごとき状況において、久しく忘却されてきた修辞学に再び注目することは何らかの意義を有し得ないであろうか。修辞学を導き入れることによって現代の哲学に何らかの新しい道を拓くことが期待され得ないで…

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