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日記
にっき
作品ID46236
副題03 一九一六年(大正五年)
03 せんきゅうひゃくじゅうろくねん(たいしょうごねん)
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十三巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年5月20日
入力者柴田卓治
校正者青空文庫(校正支援)
公開 / 更新2012-12-04 / 2014-09-16
長さの目安約 168 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一月一日(土曜)
〔書信〕大久保明子
〔読書〕私は今日一日何も読まなかった事を恥じる。
 之から新らしい一年が始まると云う事については又新らしい幸福な勇気が自分に湧き上って来るのを感じる。
 久米さんが来てこの間から私の頭をなやまして居た人類の愛と云う事について話が出た。母としての人の云う事、一人の男として思う事をのべる人との間には異った点があんまり大きい。
 自分は何か自分の考えを得なければならないと思う事が苦しい位明かに思われて来る。考える事は私にとって今は労力の消費をはげしくするにすぎないと云う人もあるけれ共、私は考えはあくまでもねられなければならないと云う考えから出来るだけ考える。思索を以て始められた此の一年は私にとって意味深い事である。

一月二日(日曜)
〔書信〕(来)高嶺
    (返)同右 大久保 小田切
〔読書〕「宇宙の謎」を四十一頁、「戦争とパリー」を少し、四十三頁
「宇宙の謎」を読みながら思った。私共は考えずには居られない人間に生れついて居る。考えるのはいくらでもよい、親と云うものにつき自分と云うものにつきどんな学理的な解釈をしてもかまわないので有る。けれ共学理的に解剖した事は実生活に不都合かと云うに必ずそうではない。却ってたしかに親なら親を知り宇宙なら宇宙を知り得るので快いのである。今まで極くおぼろげなものであった宇宙と云うものをこの本を読んで恐ろしく学理的に書いてあってよく分って宇宙と云うものが確かに自分の見る宇宙になった。世のすべての事を神秘説で被うには及ばない。有りのままを静かに見るべきである。その結果として世の中はつまらなくなるものではない、又そうならない解釈でなければ正しくないのである。私はすべてを学理的に理解して確な踏み台に立って世の中を見るべきである。

一月三日(月曜)
〔書信〕坂本千枝子へ出
    巨勢春野返
〔読書〕「宇宙の謎」三十頁
    「戦争トパリー」一一三頁
 書き掛けの物をいつまでも持って居るのは辛いものだ。
(八)十六枚を書きあげる。
 今日は去年最後の産物だった「二十三番地」と「追憶」を父が箱根の次手に熱海に居られる坪内さんの所へ持って行って下さる筈になった。
 相当に物も読んだし書きもしたので満足である。
 彼の大きく出来すぎた袖模様の羽織が又母との感情の不和の原因に今日もなった。女の生活に着物と云うものの占めて居る位置のつよさにおどろく。寿江子[#中條寿江、中條家三女]が大変私に機嫌がよかった。嬉しい事である。

一月四日(火曜)
久米正雄氏より『帝国文学』、手紙
 久米さんの所から「金井博士とその子」と云う劇を送って呉れる。一番音彦と云う息子と、巴子が一番よく出て居る。一番力を入れて書いた人物だからでも有ろうけれ共恋心の芽生のある巴子と、メフィステックな音彦と、おっかけっこのおとぎ話はいかに…

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