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日記
にっき |
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作品ID | 46244 |
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副題 | 12 一九二六年(大正十五年・昭和元年) 12 せんきゅうひゃくにじゅうろくねん(たいしょうじゅうごねん・しょうわがんねん) |
著者 | 宮本 百合子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「宮本百合子全集 第二十四巻」 新日本出版社 1980(昭和55)年7月20日 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 青空文庫(校正支援) |
公開 / 更新 | 2014-10-02 / 2014-09-15 |
長さの目安 | 約 54 ページ(500字/頁で計算) |
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一月一日(金曜)晴
昨夜おそいので眠し。然し、今年からは九時起床の約束だから先ず起きる。女中が晴着を着て居るから、まあ正月という気がするが、大して元旦らしくもなし。まねのおとそ。雑煮、それでも色彩だけは仰山な口とりもつけて出した。起きたときは曇って居たがやがてよい元旦となる。小さい一人の男の子「新年おめでとう」「おやすみなさい」と教わったばかりと見えいく度もくりかえして居る声す。温泉宿での元朝は生れて始めての経験であった。年賀のハガキ。自分アドレスが分らずこまるところ沢山、わかって居るのにだけ出した。
一月五日(火曜)雨 寒
今日は仕事にて、モヤ一人放ぽり出し。
退屈まぎれに、しきりに方角を日記でしらべ、やっと甲乙丙丁庚辛壬癸を発見した。
一月八日(金曜)
帰京。天気でよかった。汽車の中に、角力や義太夫をひいきにする大男、とりまきを多勢つれて、修善寺から乗る。
ああいう種類の男を見面白かった。
他に、男妾のようなものをつれた醜い、人の好い、情の厚そうな三十五ばかりの女など。
吉奈の東府やの主人、駅前の、舟橋がこわくて、自動車を降りたのは可笑し。ゴーゴリ的人格。汽車の中にも面白い男が居た。正月の旅行はそのような点面白し。
一月九日(土曜)
昨夜は汽車弁当ですまし、女中のないところにかえって来たのだから、今夜はゆっくり家で食事をしたいのに、自分林町のおよばれでホテルに出かけた。石橋夫婦[#石橋和訓夫婦]子供が客。
石橋夫人。平凡人。ひどい平凡人で、沢山描かないと云って小言を云う。彼のように生産的でもそういう不平をきくなら、他の人であったらどうだろう。
Artist's life is not easy in anywhere.
という。少し説教してあげたい位であった。
十一時頃かえり、門明かず困って居ると、Y、かえって来。丁度よかった。花の茶屋というのに、秀雄と行った由、ほろよいで愉快そうであった。
一月十日(日曜)
今日は二人でエンジョウイしようとして外出。
一月十一日(月曜)
自分、湯ヶ島から少し引きかけの風邪よろしくなく、とても工合がわるい。
熱はないのだが頭重く。床につく。
一月十二日(火曜)
Y、湿布などしてくれたので、(昨夜)少し工合よくなった。然し力なく、弱さを感じ。床に居る。
ひる間、一寸二人でカルタをする。自分この頃カルタがすきになり、じきしたい。やり方が判ったばかり故らし。Yこの正月は運よく勝つというのでよろこんで居る。
とし子を金山にやり、風邪で、原稿を、十五日までのばして欲しいと云ってやる。
一月十三日(水曜)
夜、床の上に坐り、Yの紫檀をもち出して数枚書く。
一月十四日(木曜)
一日仕事
一月十五日(金曜)
仕事、夕刻仕舞い。とし子のかえるのに文芸春秋社まで持って行って貰う。
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