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日記
にっき
作品ID46246
副題14 一九二八年(昭和三年)
14 せんきゅうひゃくにじゅうはちねん(しょうわさんねん)
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十四巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年7月20日
入力者柴田卓治
校正者青空文庫(校正支援)
公開 / 更新2015-11-25 / 2015-09-01
長さの目安約 120 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一月一日(日曜)
 昨夜三時すぎに眠った故、起きるの辛く、やっとの思いで床を出た。朝日が出て、元旦らし。
 橇にのってゆく。大使館のお祝へ。
 モヤ、お雑煮がたのしみ故、どうしても行くと云って頑張り、且つ、起きぬけに餅をやく臭いがすると云ってさわいだ。大使館、大使、後藤新平一行その他、女の人達五六人居たが、外交官として随分質がわるく、けちに見えた。かえり、花を買う、シクラメン白(ニキーチナ夫人に)赤、自分達のために。ニキーチナ夫人のところで、「オクチャーブリ」[#十月革命]の作者ヤコブレフ(プロレタリアート作家)に会う。かえったら、子供のための劇場、今日の約束の由、おどろいて行ったがおそく、途中でストローバヤ〔食堂〕により、スタニスラフスキー・スタディオに、オネェーギンを見る。
〔欄外に〕
 スタニスラフスキーのオペラは、芝居とオペラとの調和が狙いどころの由、群集をリズム(音楽)に合わせて動かし、イタリーの無駄な遊びを整理しようとして居るところ、セッティングを、四本のコラムをどこまでも利用して居るところ、面白かった。試みを理解する愉快。完成の愉快ではなかった。

一月二日(月曜)
 モヤ、先に下へ降り、自分あとから行くと、(食堂)「君のために問題が起ってるのさ」何かと思えば、ニキーチナ夫人のところで、私が日本文学について話ししたいと云った。それを、生意気だと、AとNと二人で云った由。腹が立ち、彼等が作家のクラブであるスボートニク〔土曜集会〕を背景にしてのみニキーチナに対し個人的に自由に話したり喋ったり出来ないけちな心持で憤慨した。A氏、淡泊のようで淡泊でなし。私が彼のとなりにあって、のびのびやってゆくこと感情的に不快なのなり。世渡りを考えて行動するところをむ出し、いやになった。三流的人物の規模なり。レットヒム、do! whatever he wants to do. 生存難が彼をしからしむるなり。然し、その位の見当の違いを云われて、腹を立てるようでは仕方ないと、A氏の云うのとは別な方面に反省した。自分は、ニキーチナに極めて意企なしにその希望をのべたの故、彼の云うように出すぎたとも態度を反省すべきとも思わず。
〔欄外に〕
 モヤ、食糧品を売るコムナール〔国営の食堂兼食料品店〕で、赤葡萄酒を買う。パンも買う。リンゴ。夜、秋田さん達来て、一緒にその葡萄酒をのんだ。

一月三日(火曜)
 朝、В・О・К・С〔全ソ対外文化連絡協会〕に行き、レーニングラッドゆきのことを話した。可否論相半す。
 二時にニキーチナ夫人のところへ行って、それから写真屋へゆき、いろいろの写真をとった。十四日にスボートニックで日本文学の夕をする由。
 七時半から、後藤子爵の歓迎を意味する会がВОКС中心で行わる。ルナチャルスキー、カーメネワ夫人、カラハン、前田多門、大使など。後藤、この連中の中に…

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