えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
日記
にっき |
|
作品ID | 46248 |
---|---|
副題 | 16 一九三〇年(昭和五年) 16 せんきゅうひゃくさんじゅうねん(しょうわごねん) |
著者 | 宮本 百合子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「宮本百合子全集 第二十四巻」 新日本出版社 1980(昭和55)年7月20日 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 青空文庫(校正支援) |
公開 / 更新 | 2016-06-19 / 2016-06-23 |
長さの目安 | 約 104 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
一月一日 水
モスク[#挿絵]の正月のしじまいだ。遊びじまいをした。
一月四日 土
オリガ・ヤコブレナが散歩に誘う。コロス〔映画館名〕へ行ったら一寸でおくれ、ずっと四角く歩いて家へゆき、狼と羊などして遊んだ。
一月五日 日
酒匂さんのところへ最後に集る。極めて少数。犬伏君大いに力を入れてアホダラと謡曲をやった。主人公皆に浮き立って欲しかったらしいがそううまく行かず。
一月六日 月
午後六時四十分酒匂さん夫婦出立。はじめ大キーツスキーへよって停車場へ送った。見送人多勢。柵の外の人間が珍しそうに多勢の日本人を眺めて居た。自分達これで一役すました感じだ。
一月九日 木
一九〇五年の一月九日の記念[#血の日曜日]のためにゴルキーの夕をやった。ラリサ・レイスネルの夫だったラスコーリニコフ開会の辞。ラスコーリニコフ若いときは暖いよい若者だったろう。これとラデックと比較すると渋さが違い、面白いと思った。
一九〇五年の一月九日の四人朗読非常によかった。
今日やっとビザがもらえた。三ヵ月だ。
一月十日 金
きんさん夫妻が来た。あすこ、それから御雑煮をたべた。
一月十一日 土
きんさんのところへゆく。
一月十二日 日
桜木さんが来た。いろんなアニェクドート〔逸話〕をきいた。
K、ローマから手紙。もう一月六日に日本へ立ってしまった! 何だ! 何のために出てきたのだ。バカ!
一月十三日 月
ソブレメンヌイ・ポエジー[#現代詩への夕べ]へ行った。なかなか面白い。かえりに馬車へのった。
一月十四日 火
芸術座でツァーリ・フィヨードル〔「フョードル皇帝」〕を見た。これはモスクビンだが、ボリスをやる男が柔いのでフィヨードル引き立たず、惜しかった。このボリスより第二のイワン・グローズヌイ〔「イワン雷帝」〕のボリスの方が効果的だった。
Yのところへ先生が来るというので出かけて Moscow まわりをしたが待ちぼけだった。
一月十六日 木
オリガ・ヤーコブレブナが来て夜すっかり話した。六時すぎ先生が来るというので仕方なくべこ出かけて活動を見た。(アンチミリタリズムの)
かえって仕事しようとして居たらオリガさんが居て実は悄気た。
一月十七日 金
マールイ・テアトルへ、貧は罪ナラズを見にゆく。下らぬ。皆それでも泣いて居た。メデタシメデタシ。
Y、先生。自分パッサージへ行って、クロプイ〔南京虫〕の薬かって、上靴を買った。
一月十八日 土
天羽さんのところへ夜よばれた。
洗濯をとって渡して来た。こんどの支那人は、若い夫婦で心持よかった。それから一人でもやフレスチャーノヴィッチへ行って留守。手紙だけおいて来た。
一月十九日 日
もや一人氷すべりに行った。オリガさんと。靴がわるくてすべれず閉口した由。夜又出かけ彼女のところでおそくまで居た…