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日記
にっき
作品ID46254
副題23 一九三九年(昭和十四年)
23 せんきゅうひゃくさんじゅうきゅうねん(しょうわじゅうよねん)
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十四巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年7月20日
入力者柴田卓治
校正者富田晶子
公開 / 更新2018-09-20 / 2018-08-28
長さの目安約 59 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一月一日(日曜)
 起き初め
 普通の御飯のたべぞめ

 病院では元日には先生がた出て来る。外科では恒例で手術室で福引をするよし。やっぱり大して品のよい文句もないらしい。木村先生盲腸切開、指が入らない、というので子供の指環を当てた人があるよし、これなど上の部。

 夜寿江子、島田のかつらをかぶって振袖でやって来た。病院でこんなことをして遊べるのもいいようだが、今度はここの病院のそういうのんきさが却って苦しいように思えた。聖路加では二時―五時面会時間区切って、一日二人位にきめている由。本当の病気のときはそれでないとやり切れまい。廊下も実にざわめいているし。い号の下は軽症が多くてざわざわしているのだそうだが。

一月二日(月曜)
 風呂に入り初め

一月三日(火曜)
 やっと髪を洗う。本当にさっぱりした。十二月に入っては天気が寒かったところへ風邪で二週間だめで、とうとう洗えなかった。病院の中は乾しやすいし風邪の心配もない。

一月六日(金曜)
 大きいおなかの上の小さい創を写真にとる。
 病院のなかを散歩し初め。

 ○これまで仰臥して傷を見ていた。それは小さくてこわくもなかったが、いよいよ起きて立って鏡にうつして見たら、やっぱりおなかは切っては悲しいと思う。白く、大きくつるりとしていたおなかに、こわい凹みが出来て、傷である。決してないようにはならない。それをまざまざと感じ、心の傷とこういう傷と比べる気になった。こういう傷をもし心にもっていたとしたら、何と切なかろう。何かにつけそこにふれる、するといつも特別な感じで感じられるという風であったら。

一月七日(土曜)
〔発信〕第三信

一月八日(日曜)
〔受信〕第一信
 この辺の日記は手帖からうつす。きょうからガーゼにおつゆがついていなかった。大出来なり。十日にかえることにきめる、と書いてある。
 mからの第一信、やさしい手紙。終りに今年もよく学びよく慰とかいて消して力になってと直して書かれている。この字が消されていること、そして自然そういう字が出たところに何か云いつくせぬものを感じる。

一月九日(月曜)
〔発信〕第四信
寿江子 面会
 夜急にゾーゾーとかぜをひくかと思ったが無事におさまった。あしたかえると思うと落付かず。うちで誰が待っているというのでもないのに。これで、家に旦那さんの待っている妻君であったらどんな心持がするであろうか。そんなことを考える。
 先に、市ヶ谷からかえっていきなりい号の下に寝たとき、ひとは家へかえって眠られないという。それはそうだろうと思い、だが自分はこんなところへかえって来て眠れる、と思っていたら眠れず。二晩薬をもらった。そのときのことを思い出した。誰が待っていなくても眠れず、誰が待っていなくても何となし落付かない、そこに何だか人間の哀れさ愛らしさがある。

一月十日(火曜)
 本日…

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