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日記
にっき
副題26 一九四三年(昭和十八年)
26 せんきゅうひゃくよんじゅうさんねん(しょうわじゅうはちねん)
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十五巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年7月30日
入力者柴田卓治
校正者富田晶子
公開 / 更新2019-03-15 / 2019-02-22
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

二月二十七日
 この間うちの風が珍しくきょうはやんでいる。おだやかな日なり。午後土蔵から『史籍集覧』の本箱を二階へもち出して貰う、全くガタガタになっている。が、匂いをかいでみると楠でそこに入っていた本はごく少ししか虫がくっていない。ちょいちょいと興味のあるものも見出す、永年の間に端本になったものもかなりある様子だ。手を洗い、羽織を着かえ足袋をはきかえ、ああちゃんにつれて貰って出初めを行う。染ものや迄がよかろうという、巴やの前ならちっとも坂がないから。一昨年十二月九日以来満十四ヵ月と十八日目。足もとは割合大丈夫だが道路が反射して白くてやりきれない。人の顔も。つむぎと小浜の染直し。つむぎ十五円小はま十九円びっくりした。四月からは十円以上に三割つくよし(税)裾まわし一枚分五円だそうだ。つい三年前長襦袢を染めたときは七円だった。
 かえって早速お茶を二杯ものむ。やれやれと。お婆さんてこんななのかしらと笑った。歩くのに背中がくたびれるというのは初めて知った。
 寿江子北向き室で往生し火鉢の灰を入れる騒動している。
 きのう、チン、子供を生んだ、俵の中でクンクンいう声がしている。あんなひとのよい小さな犬が母になる、いじらしい。一匹は死んでいた由。
 富雄に北斎の富士と歌麿のラッパをふく少女の版画を送る。本から切ってプワプワなのを、ふちどりさせたら二つで一円五十銭。一円位だろうという話だったが。
 きょうから又日記をつけ始めよう。そして又何年もつづけよう。
 昨夜はソボリンをのんですぐねむり、いい気持だった。夜中の一時すぎ目をさましおなかがすいているのに気がついて食堂へ出て行ったら寿江子も音で起き、牛乳をのみパンをたべるのを手つだってくれた。
 隣組箱をこしらえなければと云っている。きょう、食料の購入券とそれにつかうゴム印が来た。(組長をやっているから)
 ○来月から外食券なしでは外で御米がたべられない。代用食だけ。
 ○帝大を寮制にするのだそうだ。
 ○村田の前をとおったら、どこにもカンバンも出ていず、しもたやのよう。どこで洗濯ものをするのだろうかということはいつも話題になっていたが。これでは商売しているとも思われないのに届ければやはりして来る。妙なうち。淋しいうち。
 ○もらったとき表紙がかたくていやなように思ったが、こうしてかいてみると、さち子さんのくれたこの帖面は、なかなかつかい好いところがある、こんなにしてかくに。

二月二十八日
 寿江子に手紙かいて貰う。
 この間うちから、朝体が大儀で起きにくかったのが、きょうは我まん出来ず、夕飯迄床にいる。背中の肝ゾーの裏の痛いわけ、夕飯のとき皆のごはんをよそっていて分った。椅子の上で体をねじる丁度そこがつれて、いつの間にか一種こってしまったらしい。
 肝ゾーがあやしいのではないかと、きょうあたりは神経を相当に立てたが、こ…

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