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日記
にっき
副題30 一九四七年(昭和二十二年)
30 せんきゅうひゃくよんじゅうしちねん(しょうわにじゅうにねん)
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十五巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年7月30日
入力者柴田卓治
校正者富田晶子
公開 / 更新2019-10-27 / 2019-09-27
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

三月十日
 ○晴れて、きつい西風。
 前の家のトタンやねが反射する、そしてこっちの室のおくの障子にうつる。
 ○北窓をあけると、白雲のういた空。遠くの学校の上のガラスが光った、こういう風の日、樹木の色は、寒げにかじかんでいる。が、青桐の芽の出ない枝々や幹は水気をふくんで、いつの間にかすんなりとせいがのびたように見える。
 ○一点の雲のない空に東から丸い月、風がふいている。
「おや光った風がふく」と思うような日、
 ○霜柱のたっていた処が、荒れたままの肌でふくらんで来ている。
 ○楓がいつか独特の紅かっ色にこまかい梢を区別しはじめて来た。
 ○六時になってもまだ戸外はうすら明るい。風も凪いだ。
 西空に鳩羽色の雲があるばかりで灰色っぽい水色にくれかかる空の光の下で大きい梧桐の上向きの枝々は、芽の出る前の春の□木の上向きの枝々はあかるいときより一層上へのびて見えた。
〔欄外に〕
 春の風だった日がつづく。
 ○机の上にナの花 こぼれた花べんが、原稿紙の間にはさまる。

八月八日――長者町 小松
 余りくるしくてやり切れず。
 古在氏の知人の山腰青年の紹介してくれた小松という宿へ来る。(長者町)m、自動車の心配をしてくれ両国まで送ってくれ太田さん席をとっておいてくれ。やっと六時頃つく。石じきのいやな大通りからボロ屋の奥へ入ったら二階がまるで樹のしげみの中につっこんだようにしかも見晴しよく建っているにはおどろいた。気に入った。350 ということ。
 フロ、光の家のような別棟也

八月九日夕方六時
 一日じゅうその汽車しか通らなかったわけではないだろうのに、むこうの松林のかげでひどく汽車が煙をはく音がきこえた。まるで大きいみに豆でものせてふるうような。彼女は何となしその業々しい音に滑稽を感じて時計をみたら丁度六時。きのう自分たちがのって来た三時十何分かに両国を出た汽車だった。
 あしたもしmが来ればこの汽車で来るだろう。そう思い、きのう、駅のひろ場で自転車に荷もつをつけていたとき見た汽車のひどい黄色い煙を思い出した。粗悪な石炭をたいて走っている。かなりつよい西南の風につれて、暫くの間廊下に立っている彼女の鼻に石炭の煤煙の匂いがした。
 ○三木武吉さんて、政治家がございましょう、あの二号さんの妹さんがやっていたのがカグラ坂でも一番大きくて――
 ○兵隊宿だったせいか、自分は自分はという。
 ○長者町は、この小松はむかし内芸者をおいていてその女たちの住んでいた別棟の家がある由。

十日(日)○工合よし
 午後六時の汽車でm来るかしらと思い待った。来ず。朝のうち桃五ヶ買った百匁25円
「笛師のむれ」をよみはじめる。

十一日(月)
 ひどく涼しい八十度前後
「笛師のむれ」
 きょうむくみがとれたのがはっきりわかり、体軽くなった。どんなに疲れていたかとわかる。そして静養という…

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