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機構への挑戦
きこうへのちょうせん
作品ID46274
副題――「場所」から「働き」へ――
――「ばしょ」から「はたらき」へ――
著者中井 正一
文字遣い新字新仮名
底本 「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」 てんびん社
1972(昭和47)年11月20日
初出「東大新聞」1949(昭和24)年6月
入力者鈴木厚司
校正者染川隆俊
公開 / 更新2006-12-13 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私はこの半年間にこんな経験をした。
 私は大きな組織と機関に属する者としてものの考え方が、場所とかスペースの考え方では割切れない、新たな考え方「働き」或いは「機能」(ファンクション)でもって解かなければ、解釈のつかない問題にぶっつかった。そのことについて一つの報告を試みよう。
 国会図書館には支部図書館という一つの機構があって、それはアメリカの国会図書館にもないところの、新しい機構である。それは各省と司法部等各官庁の図書館を、支部図書館と名づけて、国会図書館を中心として、一グループの図書館群を構成する機構である。この支部図書館がいよいよ出来上る時、過半数の人々はまことにその前途を危ぶんだのである。
 何故ならば、官庁には官庁独特のセクト主義があって、横の連絡をつけることはいうべくして現実には空想に近いものであると人々は思ったのである。
 このプランに夢をえがく者をもって、人は官僚を未だ知らざる人として、秘かに危ぶんだのであった。私もまた、それには深い不安の思いをもった一人であったが、私は敢えてこのプランをもって、丹那トンネルの工事になぞらえたのである。
 十八の支部図書館長等は、半信半疑のまま、法律の命ずるところに従ってこのプランに突込んでいったのである。初期の図書館の概念は、おおむね図書室と書庫のスペースと、書庫とその中の本及びその本をまもる司書とで構成されていた。甚しいのになると、その省の組合員の厚生機関ぐらいに考えられていた所もないではなかった。まことにあるかなきかの形式的な、組織に過ぎなかった。去年の八月半ばの私達の心持は何となく、不安と暗い思いであった。
 やがて秋、国内の官庁出版物を米国に送る事によって、アメリカの国会図書館から、交換として送って来る、外国官庁出版物は時には月一万部を越える事すらあったのである。これに目をつけたのが農林省であった。彼等は近藤康男氏を主班として渉外局、調査局及び八つの研究所を、打って一丸としてこの外国図書に向って殺到して来たのである。
 そこではもはや、本を読むとか、本を納めておくとかいうスペース、場所としての図書館ではなくして、それは図書課とでもいうべき、大きな組織としての「働き」(機能)としての流れである。本は省内の何処の室にあってもよい。カタローグがしっかりしており、流れ作業の組織さえ厳密に、そして巧に出来てさえいれば立派に新しい意味の図書館が、そこにその姿を現わしているのである。もはや、固定した場所を図書館というのではなくて、省の全機構を流れている研究及び調査の流れ作業全体が一つの図書館という機構となっているのである。
 そして、国会図書館の国際業務部は、恰も乳房の如き役目を果たして、アメリカの農業技術の戦争中の進歩の姿、また刻一刻を争う現実の革新の姿が、農林省のあらゆる機構に向って、血管の中に流れ入る如く…

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