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組織としての図書館へ
そしきとしてのとしょかんへ
作品ID46280
副題――マックリーシュの業績――
――マックリーシュのぎょうせき――
著者中井 正一
文字遣い新字新仮名
底本 「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」 てんびん社
1972(昭和47)年11月20日
初出「びぶろす」1950(昭和25)年2月
入力者鈴木厚司
校正者染川隆俊
公開 / 更新2008-03-20 / 2014-09-21
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一九三九年、アーチボルド・マックリーシュ氏がアメリカ国会図書館長に任命されたときは、全米図書館人は、彼がこの道のズブの素人であるという理由をもって反対したものであった。
 彼は詩人であり、かの『化石の森』『リンカーン』の作者であるシャーッウドと親友でもあり、また、ルーズベルトの『炉辺閑話』等の文章のブラックチェンバーであったといわれている。
 それが突如、国会図書館長となったのだから、一つのセンセーションを全米図書館界に起したことは容易に想像される。
 彼はしかし、実に颯爽と、この図書館の改良に着手したのである。戦争という現実が、国会図書館をして、閑日月を楽しむ底の読書機構であることをゆるさなかったのではあろうが、この大任に敢然とついた素人としてのマックリーシュの心境は、察するに余りあるものがある。
 後にユネスコの大憲章の筆を取ったヒューマニスト詩人としての彼が、敢えて事務官としての図書館長として、五年間を如何に過したか、恐らくそれにはおのずから、映画のシナリオにふさわしい心の中のさ迷いが、彼の眼の前に展けたに違いない。
 敢えてその中に彼が飛び込み、かつその中に溺れなかった所以は、集団的組織の中に適応することのできる近代精神の詩人であったからであろうか。かかる人の中に生まれる新しい美こそ、いま正に創られつつある美にほかならないものである。
 彼は、彼のこの興味ある五年間の任期の記録を、The Reorganization of the Library of Congress, 1939-1944の中で報告している。
 その中には、まことに世界の図書館が、自らを転換すべき大いなる曲り角を示すところのもの、生々しい断層の痕を示している。
 彼は就任すると共に、実に多くの有能な委員会を組織して、その凡ての委員会の構造の中核に、自分の身を没してしまった。決して彼は英雄とはならなかった。凡ての図書館職員が英雄となることによって、更に彼を拒否した図書館界の人々を英雄とすることによって、彼の全委員会は立派に任務を果たし、彼はその全運営の聴き役となることによって、大改革を遂行したのであった。そして、彼がこの国会図書館を去ってみると、そこには全く新しい型の、未来の意味における英雄のおもかげが、ホーフツとそこにフェードアウトしながら、映画における最も印象的な推移で、姿をあらわしている。

 彼はその報告で次のようにのべている。「国会図書館の改組は、多くの男女のお互いの事務の中から行なわれたのであって、この報告もまた、この人達の事務にほかならない」と考えて、決して自分の事業とはしないのである。
 この最初に出た報告そのものの主題は、やがて、この五年間の改組の基本的主題へと展開してゆくのである。彼の五年間の仕事は、集団をテーマとした一つの作曲であり、一つの作詩でもあった。
「…

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