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アラメダより
アラメダより
作品ID46294
著者沖野 岩三郎
文字遣い新字新仮名
底本 「世界紀行文学全集第17巻北アメリカ編」 修道社
1959(昭和34)年3月25日
入力者田中敬三
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-01-01 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 アラメダの飛行場へ行った。
『飛行機に乗ろう?』
『およしなさい。落ちたら大変です。奥様に申訳がない。』
 それはミセス山田の制止であった。そこへのこのこやって来たのはプーシャイドという男。おれの飛行機は美しいから見せてやろうという。見るだけならというので、一行は柵の中に入って行った。そして飛行機エリオットを見ているうちに、つい乗りたくなってセエキスピアと二人で乗ってしまった。ミセス山田を地上に残して。
 千五百尺の上空に昇った。バークレーの町が遙か下に見える。オークランドの街上を豆のような自動車が走る。三百尺の高さだと誇る加州大学のベルタワーなんか、どこにあるやらわからない。
 飛んでるうちに思い出したは優秀船竜田丸内の会話であった。
 汽船狸丸の筆者葉山嘉樹君にいわしむれば、お椀をふせたようなあごひげのある船長伊藤駿児君、それは確かに反動団の団長らしい風貌である。しかし、話してみると案外やさしい。
 伊藤船長の話によると、最初の普選に打って出て見事選挙民を泣き落した鶴見祐輔君が、いよいよと決心したのはニューヨークあたりで演説をしている頃であった。ところがサンフランシスコ出帆の竜田丸に乗り後れたならその運動に間に合わない。で、竜田丸の船長あてに是非便乗を頼むという電報を打って、郵便飛行機に乗って飛んで来た。
 所が出港の時間が来ても、飛行機は来ない。三分、五分と出渡[#「出渡」はママ]を延して、とうとう十五分も待った。船客の中には一個人のために出港を遅らせるのは不都合だというものもあったが、彼はとうとう鶴見祐輔君の来着を待って、桑港を出帆した。おかげで鶴見君は第一回の普選に見事当選の栄を得たのであった。伊藤船長が杓子定規だったら鶴見君のあの活躍はなかったのだともいえる。
『まあ当選したのがいいか悪いか、それは問題だがね。』
 船長はあごひげを撫でながらいったのであった。私がそんな事を思っている時、耳のそばで『愉快だね。』とセエキスピアが言った。否、叫んだ。叫ばなければ聞えやしない程プロペラの音が高い。
『愉快だ。しかしこれが二時間も三時間も続くのはどうかね。』
 そう言った時、機体が急にぐっと右へ傾いた。私は思わずバンドにすがりつきながら言った。
『桐村夫人はえらいね。』
『うんえらい女だ。』
 私の眼底には今年六十五歳の桐村夫人の姿が浮んで来た。
 桐村義英氏は京都医専出の陸軍何等軍医か何かだ。長い以前からハワイのカワイ島に開業しているが、自分の娘を東京の女学校に入学させる為上京したまま帰って来ない。どうしたのかと問い合わる[#「問い合わる」はママ]と『来たついでに歯科の方を研究して帰る。只今水道橋の東京歯科医専に入学している。』との返事。此の変り者の夫人もまた変り者である。『娘と競争して負けないようになさい。入学したからには必ず卒業してお帰りなさい。…

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