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罪と覚悟
つみとかくご
作品ID46342
原題A Retrieved Reformation
著者オー・ヘンリー
翻訳者大久保 ゆう
文字遣い新字新仮名
入力者大久保ゆう
校正者
公開 / 更新2006-05-18 / 2014-09-18
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一人の監獄が、刑務所内にある靴工場へやってくる。そのとき、ジミィ・ヴァレンタインは靴の革をせっせと縫っていたのだが、監獄に連れられて、表の事務所へ行くことになった。事務所に入ると、刑務所長がジミィに恩赦状を手渡した。今朝、知事の手でサインされたものだった。ジミィはやっとか、というふうに受け取った。四年の刑期のうち、もう十ヶ月くらいになる。三ヶ月くらいですむものと思っていたのだ。だいたいジミィ・ヴァレンタインのように、外にお友だちがたくさんいる人間は、刑務所にぶちこまれたからといって、いちいち頭を刈ってたんじゃ、きりがないくらいだ。
 刑務所長が言うには、「あー、ヴァレンタイン。明日の朝、お前は出ていいぞ。しゃんとして、まっとうな人間になれ。根は悪いやつじゃないんだから。金庫破りもやめて、堅気で生きろ。」
 しかしジミィは目を見開いて、「俺が? 今まで金庫破りなんて一度もやったことないってば。」
「そうだ、そうだ。」と刑務所長は笑う。「そういうことにしておこう。だが、それじゃあ、なんでお前さんはスプリングフィールドの一件でここにぶちこまれたっていうんだ。上流社会のお偉さんに傷を付けたら困るから、アリバイを証明しなかったって言うのか? それとも、お前に対して何か思うところのある、陪審員のくそじじいの仕業だとでも言うのか? どっちみち、ぬれぎぬだ、なんて言うやつは、だいたいそんな理由ばっかりだ。」
 やっぱりジミィは人の良さそうな顔して、「俺がですか? 所長さん、スプリングフィールドになんて行ったことないですって。」
「クローニン、こいつを連れて行け! そんでもって、出所用の服を用意するんだ。翌朝七時にこいつを出して、事務所に連れてこい。ヴァレンタイン、さっきの話をよーく、心にとめておいた方がいいぞ。」
 翌朝、七時十五分、ジミィは外にある所長の事務所で突っ立っていた。スーツを着せられるのだが、どうもこれがサイズがぴちぴちの既製服で、靴もきちきちで、歩くときゅっきゅという音がする。要するに、これがおつとめをしたあとの人に、州があてがってくれる支給品というわけだ。
 書記の人が、汽車の切符と五ドル紙幣をくれた。法律はこうやって、立派な市民になってちゃんと働くんだぞ、と背中を押してくれる。刑務所長は葉巻を一本くれて、握手もしてくれた。かくしてヴァレンタイン九七六二号は、名簿にこう記された――《知事により恩赦》。そしてジェームズ・ヴァレンタインさんはおてんと様のもとへ足を踏み出した。
 小鳥のさえずりとか、風にそよぐ木とか、花の香りだとか、そんなのは無視して、ジミィはレストランに直行。で、ここで自由の甘いよろこびをかみしめるわけ。ボイルド・チキンを食べたり、白ワインをボトル一本飲んだりして。そして食後の一服。もちろん、帰りに所長がくれたのなんかより、ずっといいやつを。…

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