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玩具の汽缶車
おもちゃのきかんしゃ |
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作品ID | 46433 |
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著者 | 竹久 夢二 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「童話集 春」 小学館文庫、小学館 2004(平成16)年8月1日 |
入力者 | noir |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2006-08-01 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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お庭の木の葉が、赤や菫にそまったかとおもっていたら、一枚散り二枚落ちていって、お庭の木はみんな、裸体になった子供のように、寒そうに手をひろげて、つったっていました。
つづれさせさせ はやさむなるに
あの歌も、もう聞かれなくなりました。北の山の方から吹いてくる風が、子供部屋の小さい窓ガラスを、かたかたいわせたり、畑の唐もろこしの枯葉を、ざわざわゆすったり、実だけが真黒くなって竹垣によりかかって立っている日輪草をびっくりさせて、垣根の竹の頭で、ぴゅうぴゅうと、笛をならしたりしました。
「もう冬が来るぞい」
花子のおばあさんはそう言って、真綿のはいった袖なしを膝のうえにかさねて、背中をまるくしました。
「おばあさん、冬はどこからくるの?」花子がたずねました。
「冬は北の方の山から来るわね。雁がさきぶれをして黒い車にのって来るといの」
「そうお。おばあさん、冬はなぜさむいの?」
「冬は北風にのって、銀の針をなげて通るからの」
「そうお。おばあさんは冬がお好き?」
「さればの、好きでもないし嫌いでもないわの。ただ寒いのにへいこうでの」
「そうお」
花子は、南の方の海に近い町に住んでいましたから、冬になると北の方の山国から、炭や薪をとりよせて、火鉢に火をいれたり、ストーブをたかねばならぬことを知っていました。おばあさんのために冬の用意をせねばならぬと、花子は考えました。そこで花子は薪と炭のとこへあてて手紙を書きました。
ことしもまた冬がちかくなりました。おばあさんが寒がります。どうぞはやく来て下さいね。
花子
北山薪炭様
北山薪炭は、花子の手紙を受取りました。
「そうだそうだ。もう冬だな、羽黒山に雪がおりたからな。花子さんのところへそろそろ行かずばなるまい」
北山薪炭はそう言って、山の炭焼小屋の中で、背のびをしました。
「どれ、ちょっくらいって、汽缶車の都合をきいて来ようか」
北山薪炭は、停車場へ出かけました。そこにはすばらしく大きな汽缶車がもくもくと黒い煙をはいているのを見かけました。
「汽缶車さん、ひとつおいらをのっけて、花子さんの町までいってくれないか」
北山薪炭が、そう言いました。
「いけねえ、いけねえ。今日はおめえ、知事さまをのっけて東京さへゆくだよ。そんな汚ねえ炭なんかのっけたら罰があたるよ」
汽缶車は、そう言って、けいきよくぶつぶつと出ていってしまいました。
すると、そこに中くらいの大さの汽缶車が一ついました。北山薪炭はそばへよっていって、
「こんちは、君ひとつ花子さんの町までいって貰えないかね。花子さんはおいらを毎日待っていらっしゃるんだ」
と言いますと、いままで昼寝をしていた汽缶車は眼をさまして、大儀そうに言うのでした。
「どうせ、遊んでいるんだからいってやってもいいが、なにかい…