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作品ID46453
著者竹久 夢二
文字遣い新字新仮名
底本 「童話集 春」 小学館文庫、小学館
2004(平成16)年8月1日
入力者noir
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-08-02 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 時
ある春の晴れた朝
 所
花咲ける丘
 人物
少年   (十三歳位)
少女   (十一二歳)
先生   (小学教師)
猟人   (若き遊猟家)
兎    (十二三歳少女扮装)

 舞台は、桜の花など咲いた野外が好ましいが、室内で装置する場合には、緑色の布を額縁として画り、地は、春の土を思わせるような、黄土色の布か、緋毛氈を敷きつめる。背景は、神経質な電気の反射を避けるため、空も山も花も草も、それぞれの色の布を貼りつけたものを用う。すべて舞台の装置も、演出も、神経的でなく、子供の本能と情操とが想像した、愛らしい朗かな春そのものの創造であること。
 扮装は、少年少女は平常着のままでも好い、その他は子供の空想の産物で好いが、先生は威厳を損じない程度にのどかな人物であること、猟人はずんぐりしていて意気なあわてもの、兎はフランネルのマスクを被る。
[#改ページ]

    第一景

 幕があくと、舞台裏から左の唱歌が、だんだん近づき、舞台下手から少年少女が歌いながら登場。
さくら  さくら
やよいの そらは
みわたす かぎり
かすみか くもか
 少年少女が登場すると、舞台裏でもその唱歌を少し遅らせて、山彦の心持で歌う。
少女「おや! 兄さん、誰か山の向うでも歌っていてよ」
少年「うそだよ、きっと夏ちゃんの空耳だろう」
少年歌いつづける。少女耳をすます。
においぞ  いずる
いざや  いざや
みに   ゆかん
少女「いいえ兄さん、よく聞いて御覧なさい……ほらね」
少年「ああ、ほんとだ、誰だろう」
少女「ね、兄さんもっと何か言って御覧なさい」
さくら   さくら
やよいの  そらは
少年歌いながら首を傾、舞台裏でも歌を真似る。
少年「誰だ!」
山彦「誰だ!」
少女おどおどと少年に寄添う。
少年「真似をするのは誰だい」
山彦「真似をするのは誰だい」
少女「兄さん、あたし怖くなったわ」
少年「怖かあないよ。誰かきっと悪戯をしているんだ」
少年勇敢に力みながら
少年「人の真似をするのは失敬だぞ!」
山彦「人の真似をするのは失敬だぞ!」
少女「大丈夫兄さん?」
少年「大丈夫だよ」山に向い「馬鹿野郎」
山彦「馬鹿野郎」
少女「兄さん。向うの人きっと怒ったのよ」
少年「そうかなあ」
少年も怖気づき、妹をかばう。
上手より吉野先生登場。
少女「あら先生よ」
少年「あ、吉野先生、こんちは」
先生「今日は」
少年「先生、先生は先刻、山の方で唱歌をお歌いになりましたか」
先生「いや、歌いませんぞ」
少年「でも、先生、ぼくたちが唱歌を歌っていたら向うの山でも唱歌を歌いましたよ」
先生「なるほど」
少女「それからねえ先生、あんまり真似をするからお兄さんが誰だって仰言ると、向うでも誰だって言いましてよ」
先生「なるほどね」
少年「あれは山の婆が歌ったんですか」
先生「ははは、それはね山のお婆さ…

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