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書籍の風俗
しょせきのふうぞく |
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作品ID | 46515 |
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著者 | 恩地 孝四郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本の名随筆 別巻87 装丁」 作品社 1998(平成10)年5月25日 |
入力者 | 門田裕志 |
校正者 | 仙酔ゑびす |
公開 / 更新 | 2007-03-01 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 10 ページ(500字/頁で計算) |
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本も時代によって、さまざまな風俗を成す。前述したように本はいつもその時代の趣味好尚を映じ出している。即ち、僧俗時代、貴族時代、そうした時代の本はやはりそうした時代を明示する姿を以て遺されている。燦爛たる光耀を伴うような、神への尊崇と神への敬順を具象化したような宝玉や金属で飾られた寺院本、紋章や唐草や絡み模様などでけんらんと装われた貴族蔵本などは自ら過剰な、華飾的な此等の生活と風俗を具えている。蓋し当然事である。印刷術の発明、大量化以来、本は、甚だその働き場を拡大された。私蔵装飾本は、本のうちの甚だ少数なる一部となった。そして大多数は公刊装本によるものが規準となった。現代に於ては、本も甚だ多衆的なアンチームな姿を以て世紀を縦断している。この現代である。所で日本の現在、本はどんな姿をしているか。改めていうまでもないが、一応は述べなければならないことだ。日本はその過去の本に於ては、西洋本と甚だ異る綴本装幀をもっている。巻物形式までは略同様であったが、綴本形式になってからはまるで変った形式となった。即ち袋綴じであって、截口が綴る方にある、西洋の逆態である。西洋と東洋とは、いろいろなものが逆であるが、本もその例を如実に示している。表紙を本文に綴じ合せる方法は西洋では早く姿を没したが、日本ではそれが、洋風装本の渡来までそのまま存続していた。チョン髷と同様である。この和風綴本、これは現在もむろん存在する。数から云っても、教科書類のこの方式のものを加えたら、相当な量であろう、が一般公刊本にあっては極めて少数がそれであるのみである。そして本の綴装といえば、殆ど大部分の人は洋式装しか頭に浮べないであろう程、洋装が常態となった。丁度男子は、街頭に於ては殆ど洋装であるが如しだ。これ即ち日本現在の風俗に協応するものであって、現在生活の洋風化の実情をはっきりと具象しているものである。本箱本棚を考えても竪に並べる洋式の方が普通である。和装は特殊な好み以外に普通は行われない。そして和装はその意匠を施すべき範囲が甚だ狭い。つまり和装本の形式は、丁度和服が殆ど手のつける余地のない程、完成し切った形体であると同じである。現在公刊本に此の和装の形式が変形乍ら用いられるのは、僅に箱だ。即ち、題貼り形式がそれである。稀に数奇を好んで本にも之が用いられるが、木に竹をついだ感じでおちつけない。
折本仕立に至っては画帖、書帖の類の外は殆どないといってもいい位だ。であるから、この記述では和本仕立の装綴については之を省いて触れることをしない。
現在行われている洋式装本をみるに大別して三種である。即ち、略装、本装、華装だ。猶、この外に仮装を分ける方がいい。これは略装に含ませてもいいが、観念が別の所から出発するから分ける方が正しい。
仮装は、ただ糸かがりをし、簡単な上被で之を覆い、綴じ放しの截ち切らず、即…