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幕末維新懐古談
ばくまついしんかいこだん
作品ID46546
副題44 東雲師の家の跡のことなど
44 とううんしのいえのあとのことなど
著者高村 光雲
文字遣い新字新仮名
底本 「幕末維新懐古談」 岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日
入力者網迫、土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2006-10-16 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 ついでながら師匠東雲師の家の跡のことをいって置きましょう。
 師が没せられて後私ら兄弟子三枝松政吉氏が後のことを私に代ってやったことは、先日話しました。東雲の二代目になる息子は、雷門の焼けた丑年生まれで、師の没せられた時は十四、五、名を栄吉といって後に二代東雲となりましたが、この人、気性は父に似て至って正直で、物堅い人、また甚だ楽天家でありましたが、かなり酒量の強い方の人であった。しかしそのため他人に迷惑を掛けるというようなことは決してなかった。一時瓦斯株を買って大いに儲け、従前よりも一層派出にやっていた時代もあったが、その後また都合が悪くなったということであった。あるいは株の下落したためであったことであろう。その中、未亡人も没し、政吉氏も亡くなって、とても大店がやって行けなくなり、手元は不如意がちでついに店を人手に渡すことになりました。栄吉氏の弟に豊次郎という人があったが、これは早世しました。妹のかね子という人は、女ながらなかなか確かりした人で、仕事も出来、手もよく書き貞女にて、千住中組の商家に嫁ぎ、良人の没後後家で店を立派にやって行き、今日も繁昌致しおります。
 二代東雲の栄吉氏の子息は、祖父東雲師の技倆をそのまま受け継いだようになかなか望みある人物であります。これは私の弟子にして、丹精致しまして、目下独立して高村晴雲と号しております。三代目東雲となるべき人であります。ただ、惜しいことには、健康すぐれず、今は湘南の地に転地保養をしておりますが、健康恢復すれば、必ず祖父の名を辱かしめぬ人となることと私は望みを嘱しております。

 さて、また、彼の金谷おきせさん(東雲師末の妹)は良人没後再嫁し、娘が出来ました。その娘が金物商中山家へ縁附きました。中山氏は北海道樺太地方に事業を起し、今日では樺太屈指の豪商となっている。で、その弟息子に金谷の家の跡を襲がせることになっております。中山家と、私宅とは今日親密の交際を致し、同氏出京の時は必ず拙宅に訪問されております。右ようなわけにて師匠東雲師の跡はまずよろしき方で残っているわけであります。



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