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二重人格者
にじゅうじんかくしゃ |
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作品ID | 46665 |
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著者 | 小酒井 不木 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「探偵クラブ 人工心臓」 国書刊行会 1994(平成6)年9月20日 |
初出 | 「新青年」博文館、1927(昭和2)年11月号 |
入力者 | 川山隆 |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2007-10-25 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 10 ページ(500字/頁で計算) |
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一
河村八九郎は今年二十歳の二重人格者である。
第一の人格で彼は大星由良之助となり、第二の人格で高師直となった。
彼がどうしてこのような二重人格者となったかは、はっきりわかっていない。父が大酒家であるという外、父系にも母系にもこれという精神異常者はなかった。ただ父方の曾祖父が、お月様を猫に噛ませようと長い間努力して成功せず、疲労の結果、人面疽にかかって死んだということがいささか注目に値するだけである。
母が芝居好きで、よく彼を劇場へ連れて行ったことは、はじめて彼が大星由良之助となった間接の原因に数えてよいかも知れない。
「委細承知……はァはァ」
これが彼の、人によばれた時の返事であった。
「獅子身中の虫とはおのれが事……」
これは彼が弟を折檻する時の言葉であった。
ある時、八九郎は、原因不明の熱病にかかった。三日三晩眠りつづけて目がさめた時、彼は、
「鮒じゃ、鮒じゃ」
と叫んだ。母親はお腹がすいたためであろうと思い、早速鮒を煮て持って行くと、
「さなきだにおもきが上のさよ衣」
こういって、彼は蒲団をはねのけたので、母親は、熱病のために彼が、高師直になったことを知ったのである。
高師直の状態が一ヶ月ほど過ぎると彼は再び大星由良之助になった。そうして自分が高師直の時に行ったことを何一つ記憶していなかった。同様に、高師直の時には、大星由良之助の時に行ったことを少しも覚えておらなかった。
大星の状態が三週間ほど続くと、又もや、彼は高師直になった。そうして二週間の後、更に大星由良之助になった。
それから、十日の後、高師直
同じく八日の後、大星由良之助
同じく七日半の後、高師直
同じく七日の後、大星由良之助
…………………………
…………………………
同じく三日の後、高師直
同じく二日二十時間の後、大星由良之助
…………………………
…………………………
だんだん、第一人格から第二人格へ第二人格から第一人格へ移る時間が縮められて行くのを見て、八九郎の両親は心配し出した。もし、その時間が極度に縮められた場合、そこに当然高師直と大星由良之助が同時に意識の上にあらわれ、高師直は大星由良之助のために殺さるべき運命になるからである。換言すれば、八九郎は、われとわが身を滅ぼすことになるからである。
そこで両親は医師を招いて、何とかして、人格交替の時間を長くする方法はないものかと相談した。けれども、誰も、この要求に応じ得るものはなかった。
とかくするうち、八九郎の人格交替の時間はいよいよ減じて行った。両親はあせった。
すると、最後に罹った医師は、T市に一大精神病院を開いている鬼頭博士を推薦し、同博士ならば、必ず適当な方法を講じて、八九郎を自殺の危険から救ってくれるであろうと言った。
そこで、両親は、八九郎をつれ、遙々T…