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「マリー・ロオジェ事件」の研究
「マリー・ロオジェじけん」のけんきゅう
作品ID46683
著者小酒井 不木
文字遣い新字新仮名
底本 「探偵クラブ 人工心臓」 国書刊行会
1994(平成6)年9月20日
初出「新青年」博文館、1926(大正15)年8月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2007-11-03 / 2014-09-21
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一、序言

 ポオの探偵小説「マリー・ロオジェ事件」は、言う迄もなく、一八四一年七月、紐育を騒がせたメリー・ロオジャース殺害事件を、パリーに起った出来事として物語に綴り、オーギュスト・ヂュパンをして、その迷宮入りの事件に、明快なる解決を与えさせたものである。小説は一八四二年十一月に発表されたのであって、一八五〇年に出た再版の脚註に、ポオは、「マリー・ロオジェ事件は、兇行の現場から余程はなれた所で書いたもので、研究資料といっては色々な新聞が手にはいっただけだった。そのために、作者は、現場の近くにいて、親しく関係のある地点を踏査していたら得られたであろう色々な材料を逸したものが多いとは言いながら、二人の人物(そのうちの一人はこの物語の中のドリュック夫人にあたるのだ)が、この物語を発表してからずっと後に、別々の時に私に告白したところによると、この物語の大体の結論ばかりでなく、その結論に到達するに至った細々しい臆測の主要な部分は、悉く事実そのままだったということである」と書いているけれども、ポオが推理の材料とした事実は、真の事実とは幾分か違っているのであって、従ってポオの与えた解決は実に怪しいものなのである。換言すればポオは自分の物語を読者に一も二もなく納得させるために、前提として、自分に都合のよい材料をのみ選び出したらしい形跡があるのであるから、ポオの結論は、決してメリー・ロオジャース事件の真相を伝えたものとは言い難い。
 然らば、メリー・ロオジャース事件の真相は何であるかというに、もとより今に至るまで明かにされてはいないのであって、今後に於て解決されることは尚更あるまじく、所謂永遠の謎に外ならぬ。従って私がこれから述べようと思うのは、この謎に対する解決ではなくて、探偵小説家としてのポオの名を不朽ならしめたこの物語の題材となっている事実を挙げて、読者の比較研究に資し、併せてポオの驚くべき推理の力について考察するに過ぎないのである。

     二、メリー・ロオジャース事件に関する事実

 その当時にすらわからない事件であるから、大部分の記録が失われてしまった今日、もはや如何ともすることは出来ない。私たちはむしろポオの小説によって、この事件の真相を教えられるという皮肉な立場に居るのであって、かの Third Degree と称する特種の訊問法を発明したバーンス探偵の著書「アメリカの職業的犯罪者」中のこの事件の記述さえ、ポオの物語の影響が見られるということである。もっとも、ポオの小説がなかったならば、たとい、殺されたのがニューヨークで評判の美人であっても、この事件はこれ程有名にならなかったであろうから、ポオの物語の内容が重要視せられるのは無理もないことかも知れない。
 チャーレス・ピアスの著「未解決殺人事件」によると、この事件の記録は、前記バーンスの著書と、…

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