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がちゃがちゃ
がちゃがちゃ
作品ID46721
著者香倶土 三鳥 / 夢野 久作
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集7」 三一書房
1970(昭和45)年1月31日
初出「九州日報」1925(大正14)年8月27日
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-08-05 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 草の中で虫が寄り合って相談を始めました。
 蟋蟀が立ち上って、
「鈴虫さん、オケラさん、スイッチョさん。もっとこちらへお寄りなさい。だんだん涼しくなりますから、みんなで合奏会をやってお月様にきかせようではありませんか。きっと御ほうびを下さいますよ」
 と言いますと、皆パチパチと手をたたきました。
 虫たちはそれからすぐに合奏を始めました。
 まずスイッチョが草の天辺へ立ち上って真面目腐って、
「スイッチョ、スイッチョ」
 と合図をしますと、オケラが土くれの蔭に坐ってしずかなこえで
「リ――リリ――」
 と羽根を鳴らします。それにつづいて蟋蟀が草の根本から涼しい声で、
「チンチロリン、チンチロリン」
 とうたい出します。その中へ鈴虫が又やさしい長いひげをふりまわしながら、
「リーン、リーン、リーン」
 と鈴の音をさせます。
 その静かでおもしろいこと……ちょうどそのとき東の山からお昇りになった十五夜のお月様は、感心のあまり虫たちが大好きな露をたくさんにそこいらの草の上に撒いておやりになりました。
 ところへ一匹の轡虫が飛び込んで来ました。
「何だ貴様たちは! おれを仲間外れにして音楽会をやるなんて失敬なやつだ。そんなことをするならおれがまぜ返してやる……ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ」
 と大きな声で騒ぎ始めましたので、せっかく始めた静かな美しい音楽会がメチャメチャになってしまいました。
 その勢いに驚いて、あつまっていた虫たちもみんな逃げてしまいました。
 轡虫は大威張りでそこいらの露をヤタラに吸いながら、
「それ見ろ。おれの音楽にかなうやつは一匹もいまい。おれは夜鳴く虫の中で一番の大きな声なんだ。みんな感心したか……ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ」
 とたった一人一所懸命にやっているうちに、
「お兄さま。あそこにガチャガチャがいますよ。大きな声をしているから遠くからでもわかりますよ」
 と言う人間の声がすぐそばできこえましたので、これは大変と、急いでガチャガチャ言うのをやめていると、間もなく頭からポカリと袋をかむせられて籠の中へ入れられてしまいました。



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