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約束
やくそく
作品ID46729
著者香倶土 三鳥 / 夢野 久作
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集7」 三一書房
1970(昭和45)年1月31日
初出「九州日報」1923(大正12)年11月10日
入力者川山隆
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-08-17 / 2014-09-21
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




「ある人が橋の下で友達に会う約束をして待っていた。そのうちに雨が降って水がだんだん深くなって、その人の胸まで来た。けれどもその人は約束を守って立っていた。そのうちに水はいよいよ深くなって、その人の口の処まで来た。けれどもその人は動かなかった。そのうちに水は口から鼻から眼まで来て、とうとうその人は溺れ死んでしまった。だから約束を守るのはわるい事だ」
 とある人が言いました。するとも一人の人がこう尋ねました。
「橋の下で溺れ死ぬ約束をしたのじゃないだろう。その人に間違いなく会うために約束をしたのだから、ほかのよくわかる処で待っていたっていいじゃないか」
「そうじゃない」
 と初めの人は言いました。
「大体、約束を守ると言う事は馬鹿な事なんだ」
 するとも一人の人がこう言いました。
「つまりお前は自分だけ約束を守らないで、ほかの人にだけ守って貰いたいのだろう」



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