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狐のつかい
きつねのつかい
作品ID4677
著者新美 南吉
文字遣い新字新仮名
底本 「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」 てのり文庫、大日本図書
1988(昭和63)年7月8日
入力者めいこ
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2003-01-09 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 山のなかに、猿や鹿や狼や狐などがいっしょにすんでおりました。
 みんなはひとつのあんどんをもっていました。紙ではった四角な小さいあんどんでありました。
 夜がくると、みんなはこのあんどんに灯をともしたのでありました。
 あるひの夕方、みんなはあんどんの油がもうなくなっていることに気がつきました。
 そこでだれかが、村の油屋まで油を買いにゆかねばなりません。さてだれがいったものでしょう。
 みんなは村にゆくことがすきではありませんでした。村にはみんなのきらいな猟師と犬がいたからであります。
「それではわたしがいきましょう」
とそのときいったものがありました。狐です。狐は人間の子どもにばけることができたからでありました。
 そこで、狐のつかいときまりました。やれやれとんだことになりました。
 さて狐は、うまく人間の子どもにばけて、しりきれぞうりを、ひたひたとひきずりながら、村へゆきました。そして、しゅびよく油を一合かいました。
 かえりに狐が、月夜のなたねばたけのなかを歩いていますと、たいへんよいにおいがします。気がついてみれば、それは買ってきた油のにおいでありました。
「すこしぐらいは、よいだろう。」
といって、狐はぺろりと油をなめました。これはまたなんというおいしいものでしょう。
 狐はしばらくすると、またがまんができなくなりました。
「すこしぐらいはよいだろう。わたしの舌は大きくない。」
といって、またぺろりとなめました。
 しばらくしてまたぺろり。
 狐の舌は小さいので、ぺろりとなめてもわずかなことです。しかし、ぺろりぺろりがなんどもかさなれば、一合の油もなくなってしまいます。
 こうして、山につくまでに、狐は油をすっかりなめてしまい、もってかえったのは、からのとくりだけでした。
 待っていた鹿や猿や狼は、からのとくりをみてためいきをつきました。これでは、こんやはあんどんがともりません。みんなは、がっかりして思いました、
「さてさて。狐をつかいにやるのじゃなかった。」
と。



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