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細流の興趣
せせらぎのきょうしゅ
作品ID46788
著者佐藤 垢石
文字遣い新字新仮名
底本 「垢石釣り随筆」 つり人ノベルズ、つり人社
1992(平成4)年9月10日
初出「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2007-07-11 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 鮒釣りには季節によりいろいろの釣り方があるが、乗っ込み鮒ほど興趣が深いものはないのである。鮒党はこの本乗っ込みをどんなに首をのべて待っていたことであろう。白い玉浮木がフワフワと流れてスイと横に動く味は、どの釣りにも求め得られない。竿も仕掛けも極めて軽く、そして繊細に作れば一層この釣りの妙所を味わい得る。竿は七、八尺から二間くらいまで、釣り場の幅の広さによって異なったものを選ぶ。仕掛けの全長は竿丈が扱いいい。道糸は秋田の渋糸十五本撚りか二十本撚り、錘から上方三、四尺を一厘五毛柄のテグスにして、錘は自由に調節ができるように板鉛を使うのが便利である。
 鈎素は一厘柄三、四寸で錘から上方五、六寸の所へ一本枝鈎を出す。枝鈎の長さは二、三寸でよろしい。浮木は直径二、三分のものを三個つけて、錘との調節は仕掛けを振り込んで浮木が三尺ほど流れる時、錘が水底に着き浮木が流れ止まるようにするのである。これを乗っ込みのしもり釣りとも貝殻釣りともいう。貝殻釣りというのは、玉浮木がフワフワと水の中層を流れて、あたかも貝殻が底の方へ沈んで行くように見えるからで、あまり早く浮木が沈んでも面白くなし、あまり遅くても鮒が餌を発見するのが遅い。錘が水底へ着いたならば竿先で軽く浮木をあおると、錘は水底を離れ浮木は水の上層に浮き次の動作に移るのである。かくして下流へ下流へと探っていく間に、乗っ込みきたった鮒の群れにめぐり会うと、そこで大釣りがはじまる。
 浅い細流では鮒は、流れの中央を遡ってくるが、少し広い流れであると、岸に近いカケ上がりを泳いでくる。であるから、なるべく足の響きが流れに伝わらぬように歩かないと鮒は驚いて枯れ藻の中へ逃げ込んでしまうものである。乗っ込みの季節になると、一雨ごとに鮒の動作は活発になるから、雨後の小さな出水の場合は、ほんとうに見のがしはできないのである。雨が降った翌日は懸命に釣り場へ駆けつけるべきだ。温和の気候が続けば水郷地方の乗っ込みは四月一杯続くであろう。佐原向こうにも神崎の向こう田圃にも沢山の細流がある。また千葉県側から大利根へそそぐ細流へは素晴らしい物が本流から乗っ込む、釣り人の油断のならぬ季節だ。



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